第3話 初めましてソフィア
そんなある日の夕方、学校が終わり家に帰ると隣の空き室に荷物を運び入れている引っ越し屋さんが目に入ってきた。
こんなボロアパートに引っ越してくる奴なんているんだ。
お世辞にもきれいなアパートとはいえない家。でも、父さんは「会社が用意してくれた物件だ! 安いし広いし、自分の部屋もあるんだ。いいアパートだろ!」といい、なかなか引っ越しをしようとしない。
おかげで、俺の家に遊びに来る奴は皆無。ま、大体外で遊ぶかほかの家に行くからいいんだけどさ。
今日もこっそりと部屋にランドセルを置き、部屋から出る。今日は気が付かれていない。きっと隠密のスキルが身についたんだ。
「おまたせ!」
今日もいつものメンバーで公園で遊ぶ。夕方まで遊んだが、今日はがり勉麗華の奴は来なかった。
こう毎回毎回来られても困るし、俺も久々にゆっくりと遊べた。
──キーンコーンカーンコーン
夕方の鐘が鳴る。
「おーい、鐘が鳴ったぞ!」
「帰るぞ!」
夕方でまだ日もあるが、鐘が鳴ったら家に帰る。これは絶対だ。破ったらかなり怒られるからな。
公園からみんなが帰り始めて、俺も自転車にまたがる。
帰る途中、ゲーム機を公園に忘れたことに気が付いた。危ない危ない。
再び戻った公園。誰もいなくなったと思ったら誰かがブランコに乗っていた。
ん? さっきまで誰もいなかったよな?
置き忘れたゲーム機を回収し帰ろうとする。
一人でブランコに乗っている子供? 遠目から少しだけ様子をうかがう。
──キィーキィー
下を向きながら、あまり楽しそうにはしてないのがよくわかる。
しかも、その髪の色を見てびっくりだ。白? 銀色? 何だあの髪の色は。もしかして見えてはいけないものを見てしまったのか?
心臓がドキドキしている、心拍数が高くなったのがわかる。
俺はゲーム機を手に持ち、急いで公園から逃げ出した。
幽霊? 誰もいなかった公園、それにあの髪の色。今まで一回も見たことがなかったけど、本当に幽霊なのか……。
「た、たぁだいまぁ!」
急いで帰ってきたので、呼吸が乱れる。きっとあれは見間違い。そうだ、絶対に見間違いだ!
「お帰り、何そんなに息きらしてるの? 早く手を洗ってらっしゃい」
「う、うん」
洗面所で手を洗い、うがいもする。鏡に映った自分を見て、なんとなく顔も洗った。
大丈夫、あれは見間違いだ。そうだ、ゲームのしすぎかもしれない。あんな髪の色、ゲームにしか出てこないし。
自分の部屋に戻り、ノートと教科書を開く。今日はゲームをしない。今日だけは勉強する。
「唯人! 宿題しちゃいなさいよ!」
「いましてる!」
「あ、あらそう……。ならいいわ」
いつもはまだ遊んでいる時間。勉強している方が珍しい。
宿題を終わらせ、珍しく自主学習までする。なんだ、やればできるじゃないか。
時計を見ると、一時間も連続で勉強をしていた。
──ピンポーン
せっかく集中していたのに、邪魔が入った。何か届いたのか?
「唯人! 今、手が離せないの! 代わりに出て!」
「はーい」
ペンを机に置き、玄関へ向かう。
──ガチャ
「はーい──」
扉を開けた先には白い壁があった。いや、正確には白い服を着た何か。恐る恐るゆっくりと見上げる。
そこにはヒゲをもじゃっと生やした大男。短髪の白い髪、いかつい目つき、俺を大きな目で見降ろしている。
「か、か、か、かぁぁぁぁぁさぁぁぁん!」
思わず大きな声を出してしまった。食われる、いや吹き飛ばされる! 逃げないと、母さん早く着て!
「はいはい、何そんな大声出して──」
母さんの視界にもこの大男が映ったはず。母さん、早く助けて!
「かかかあぁさん! お、お、大男がぁ──」
「コンバンハ」
大男が言葉を発した。
「こんばんは。どうかなさいましたか?」
母さんの背中に一時避難し、様子をうかがう。早く警察に電話しないと! えっと、警察は0120……。
「トナリニ、ヒッコシマシタ、アンディ=テイラートイイマス」
片言の日本語。隣に引っ越してきた?
「あら、今日隣にお引越ししてきたんですね」
「ヨロシク、オネガイシマス」
大男は包装紙に包まれた何かを母さんに手渡し、頭を下げている。
大丈夫なのかな?
「コレガ、ムスメノソフィアデス」
大男の後ろから現れたのはどこかで見た女の子。
そうだ、さっき公園で見かけた銀髪の子だ。幽霊じゃなかったんだ!
一歩前に出てきた女の子はこっちを見ながら軽く頭を下げる。
が、声も出すことなく、再び大男の後ろに隠れてしまった。
「ソフィアちゃんね。よろしく」
母さんが女の子をのぞき込んでいるが、彼女は顔を半分だけこっちに出し、様子をうかがっていた。
ま、俺も半分母さんに隠れて様子をうかがっているんだけどね。
でも、銀色の髪に青い目とか、まるでゲームのキャラみたいだ。
「スミマセン、マダニホンニナレテイナクテ」
「いいのいいの、何かあったら遠慮なく頼ってくださいね」
「アリガトゴザイマス」
そう一言告げると、大男は帰っていった。いったい何しに来たんだ?
「大丈夫かしら……」
「何が?」
「ごみの分別とか、出す日とかわかるかしら?」
母さんスゲー。
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