第14話 超ウルトラスーパー青春ラブコメ~不穏な空気を添えて~

「そんなに落ち込まないでくださいって。奏君だけのせいじゃないんですから」

「無理だよ、どん底まで落ち込むよ……どう考えても僕だけのせいだし」

 昼休みの屋上。今日のお弁当はいつも以上にネバネバ食品が多い。ウナギや豚レバーなどの精力増強食品まで入っている。一夜ですっかり風邪を治した綾恵さんが、今度は昨日とは逆に、僕を元気づけようとしてくれているのだ。

 風邪をうつされてしまったわけではない。メンタルがダウンしてしまったのだ。

 綾恵さんの部屋での出来事が頭から離れない。スーパーいちゃらぶタイムからのあの気まず過ぎる空気が僕の精神をむしばみ続けている。一生もののトラウマである。

 卒業アルバムを開くまであんなにギンギンだった僕のギガマックスおティンポは、綾恵さんとの両想いが発覚した瞬間からミニマムふにゃティンポに戻ってしまっていた。

 綾恵さんのシミ一つない身体を目にしても、柔らかくてハリのあるおっぱいを堪能しても、小さなお口でご奉仕してもらっても、僕のバカ息子はうんともすんとも言うことはなかったのだ。勘当したい。

「綾恵さんの大きな乳輪も陥没気味の乳首も何故かあそこだけ濃いおけっけも完全に僕好みだったのに……っ」

「~~~~っ!! も、もうっ! わざわざ言わないでくださいっ! 気にしてるんですからねっ! ま、まぁ、奏君が好きでいてくれているのならいいんですけれど……。私も奏君の大量皮余りおちんぽ大好きですよっ! 可愛くてっ!」

「わざわざ言わないでよ……僕だってフル勃起すれば先っちょくらいはコンニチハちんぽになるんだから……。まぁ君がそれを拝める日は永遠に来ないんだけどね! 僕の亀さんは綾恵さんに照れてしまって顔を見せてくれないんだ! あはははは!」

「完全にメンタルがやられちゃってますね……目が血走ってて怖い。いろいろと不安定過ぎます」

「しょせん僕は寝取られでしか勃起できない、男として終わった存在だからね!」

「私の大ちゅき旦那っぴに終わったとか言わないでください! でも……やっぱりそうなんですね……疑似NTRであんなに興奮させられたのに、いざイチャラブエッチをするという段階になると、一瞬で目が覚めてしまう、萎えてしまう、と……」

「そうなんだよ! 僕は寝取られ一筋なんダ! わき目も振らず一生寝取られに打ち込み続ける侍なんダ! 寝取られ鬱ボッキ侍、ここに見参! シャキーン!」

「お箸で遊ばないでください。あっ、で、でもっ! 昨日、ちょっとだけ奏君のおちんちんがピクッとした瞬間ありましたよね!? 抱き合ってちゅーしてる時です! 大人のちゅーに興奮してくれたんですよね!? ほら、だから希望を捨てちゃダメですよ!」

「あれは綾恵さんのディープキスがいやに上手かったから、『え、もしかして経験が……!?』って妄想しちゃって興奮しただけだよ」

「初めてのエッチ中にそんなことを……。業が深すぎます……。ていうか全然上手くありませんから。やり方なんて分からないから、必死でベロベロ回していただけです。あれを上手いと感じてしまうのは奏君が童貞さんだからなのでは? まぁあと私、舌長いんで。べー」

 清楚な顔でピンク色の舌を出す綾恵さん。えろい。ギャップがいやらしすぎる。いやらしすぎるけど勃たないでござる。綾恵さんへの呼び名もすっかり「さん」付けに戻ってしまったでござる。

「本当にごめんね、綾恵さん……。でもやっぱり君があの手この手で頑張ってくれても、僕は絶対に君とはセックスできないんだ……」

「…………そんな…………」

 俯いてしまう綾恵さん。俯いて、何故か一瞬だけ別の方向をチラッとした。そちらでは大勢の充実グループがワイワイとしているだけなのだが。どことなく、昨日の遠隔バイブ演技の際と同じような表情にも見えた。まぁ今そんな顔をする理由が全くないし、僕の思い違いだろうけど。

「これでもう綾恵さんも思い知ったと思う。僕も改めて現実を突きつけられた。ここが潮時なのかもしれない。綾恵さんの将来のためにも、もうここまでで、」

「嫌です!! そんなこと冗談でも言わないでください! 私は絶対に奏君と別れたりしません! まだ目的を達成出来ていないんですから!」

「……目的っていうなら、達成はしてるよ。父さんとの疑似NTRに騙されて、僕はおピュッピュしまくっていたんだから。『実際に寝取られることなく、僕を射精へと導く』という課題を君は百パーセントクリアした」

「……そういうことじゃないです……私の、本当の目的は……っ」

 まぁ、そりゃ綾恵さんの中での本当のゴールは僕を興奮させた後、セックスまで行くことだよな。当たり前だ。

 でも、「目的」か。少し違和感のある表現だ。確かに今までもお互いの目指すところをそう表現していたことはあった。でもそれは、当初の僕たちの関係が、ある種、勝負というかゲームのような性質を強く持っていたからだ。でも今は違う。形は歪でも、本物の愛だと確かめ合った。それでもそれを「目的」と称してしまうということは、僕とのセックスを今なお義務のように感じさせてしまっているということなのだろう。もちろん綾恵さんも純粋に僕と繋がりたいと思ってくれてはいるんだろうが……別のものも背負わせてしまっているわけだ。僕がまともな男なら、もっとロマンチックな思い出にさせてあげられただろうに。どこまでもどこまでも情けなくて、本当に自分が嫌になる。君のことが大好きだからこそ、やっぱり僕に君の彼氏である資格はないんだと思う。

「綾恵さん。君のことが大好きだった。このまま僕の情けないちんぽに呆れ果てて、浮気でもしてくれたら最高だと思う。でも、君は絶対にそんな不貞は働いてくれないと、もう充分思い知ったから。浮気だとか寝取られだとか全部抜きにして、単純に僕を捨ててくれて構わない。素直に受け入れるよ。死ぬほど辛いし、一生忘れられないと思うけど……まぁ何年後になるかわからないけど、たとえば将来同窓会とかで、君がIT社長と結婚してたりしたのを知って爆シコりできる日を楽しみに――」

「奏君」

 僕があまりにも気持ちの悪い未来予想図を話し始めたせいなのか、綾恵さんは決然とした表情で僕の話を遮ってきた。その目は――あの日、この場所で、僕に告白をしてくれたときと同じように――真っすぐと僕の心を撃ち抜いていた。

「付き合ってください」

「は? 綾恵さん、何を言って……」

「私達、もっと普通の恋人同士になりましょう。エッチなことは封印して、清いお付き合いをしていけばいいじゃないですか」

「普通の、恋人……」

「そうです。デートをして、手を繋いで、キスをして。何か月でも何年でもそれを重ねていきましょうよ。そうしたら、きっとその内、ごくごく自然に、からだ同士も一つになれる気がします」

「綾恵さん……でもそんなのいつになるか……」

「待ちますよ、いつまでだって。たとえばそれが結婚した後になったって何ら問題はありません。むしろひと昔前まではそれが普通だったのでは?」

「本当に、いいの……?」

「いいも悪いも、私は奏君と別れるなんて不可能なんです。逆にそうなれば奏君はこれから一生寝取られなんてものを体験出来なくなるわけですから、お願いしているのは私の方なんです。どうでしょうか、奏君。改めて、私の恋人になっては頂けないでしょうか……?」

「綾恵さん……っ」

 本当に、何て真っすぐな人なんだろうか。こんな人が隣にいてくれるのなら、僕もいつか真人間に戻れるのかもしれない。

「大好きです、奏君」

「……僕も、大好きです……っ、これからも僕の恋人でいてください……!」

「はいっ! もちろんですっ♪」

 爽やかな夏の青空の下、僕たちは高校生らしいキスをした。


 ちなみに屋上への入り口が、向こう側からずっとガンガンガンガン叩かれまくっている。叫び声も聞こえてくる。間違いなく舞である。高いところが怖くて外の景色は視界に入れられないが、頑張ってここまでは登ってきたようである。可哀そうだから、たまには三人でお出かけしたりするのもいいのかな。登山とか。

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