第3話 何にでも「お」をつけるお上品な綾恵さん
すごかった……綾恵さん……初日からまさかあんな攻撃を仕掛けてくるなんて……!
思わず喉を鳴らしてしまう。我ながら結構やばい顔もしてると思う。すれ違う小学生が防犯ブザーに手をかけてたくらいだし。
綾恵さんと付き合うことになった翌朝の通学路。初夏の爽やかな朝日に照らされながら、僕は昨夜見た衝撃的な光景を思い出していた。
――絶対に寝取られることなく、全力で僕を興奮させにくる。そんな綾恵さんの宣言が思いもよらぬ形で実行に移されたのだった。
すなわち――疑似NTRビデオレター。
僕が以前から目をつけていた野球部の先輩たちに綾恵さんが廻されてしまったことを思わせるような内容の動画が届けられたのだ。
凶悪な内容だった。他人の精液まみれになった綾恵さんが僕に向かって卑猥な言葉を……うっ……思い出しただけで……。しかし動画はそのままでは終わらなかった。実は綾恵さんは、
「おはようございます、奏君。どうでしたか、昨晩は」
清楚がセーラー服着て歩いてるみたいな美少女が突然僕みたいなゴミクズに笑顔を振りまいてきた。詐欺かな。宗教かな。あ、僕の彼女だった。
「綾恵さん……っ! どうでしたかじゃないよ! ひどいよ、あんなことするなんて……! 僕は大切な彼女がガチムチ野球部の筋肉頼みのパワーセックスで弄ばれたと思って膝から崩れ落ちたんだからね! おはよう!」
「きゃっ、大切なお嫁さんだなんて、人前でそんな……もうっ、イケない旦那様なんだからっ。だいちゅき」
言ってる意味はほとんど分からなかったが両手で顔を覆ってクネクネする綾恵さんはとにかく可愛かった。
でも確かにこんな普通の通学路で話す内容ではなかったかもしれない。ランニング中の野球部員に怪訝な顔向けられたし。やみくもなランニングは筋肉量を落としかねないとダルビッシュが言っていたので野球部にはウェイトトレーニングだけやっててもらいたい。僕が体育会系間男に求めているのは肉体なのだ。ダルビッシュに寝取られたい。その様子を生配信してもらいたい。
「でもですね、奏君」
綾恵さんがひょいっと体を寄せて、耳元で囁くように言ってくる。いい匂い。
「私が他の人にエッチなことされているのを見たいと言ったのは奏君ですよね? 先輩方のお名前も奏君リストの中から選んでお借りしたんですよ?」
「そうなんだよ! あの喪失感が堪らないんだ! 昨夜のあれは最高に酷い仕打ちだったよ!」
「難儀なお方ですね……だいしゅき」
「なのにどうして途中でやめちゃったんだよ! 射精まで至らなかったじゃないか!」
もはや普通に大声を出してしまっている僕。しまった、まずいな。僕が寝取られを望んでいると知られてしまっては間男の邪悪さが薄れてしまう。いやそういうパターンもそれはそれでありなんだけど、でもやっぱり一発目は王道から入らないといろいろ
「お射精……出来なかったんですか……頑張ったのですが……」
しゅんっとしてしまう綾恵さん。射精を尊敬語にされる日が来るとは思わなかった。
「い、いやもちろん君が悪いんじゃないよ? 僕の頭がおかしいだけなんだから。こんなことやりたくなければやらなくていい。ただ、何かどう見てもノリノリでやっているように見えたからさ。だったら最後まで貫いてくれれば……」
「ふーむ、そうでしたか……実は一旦『寝取られ』を当て馬に興奮してもらってから、イチャラブちゅっちゅ動画で本番おピュッピュして頂く作戦だったのです」
「当て馬になるのは僕だッ! 僕という惨めな寝取られ男がいることによって間男も綾恵さんも興奮するのだ! エッチが激しくなるのだ! 本番おビュルルルルルルル!して頂きたいのだ!」
「奏君ってそんな口調でしたっけ」
口調の話をするならビデオレターでの君の方がすごかったのだ。へけっ。
「とにかくそれが私に出来る最善の策だと思ったのです。寝取らせられることなく奏君におビュルルルッ! おビュルっ! おドピュっ! おドピュドピュっ! おビュっ……して頂くためにはあれしかないと……」
「僕のはそんなに荒々しくない。そんな余韻もない。間男のたくましくて凶悪なオス射精と違って、情けなく陰キャおピュッピュすることしかできないオタクおちんぽなのさ……」
「何で自分で言ってそんなに落ち込んでるんですか?」
「そういう性癖なのさ……」
悲しいね……。
「でも、そうですか……結局のところ、やっぱり私とイチャイチャするだけではダメだったということですよね……」
「ご、ごめん……だけどまぁ、そういう前提で付き合い始めたわけだし……正直僕のおちんぽの頑固さは君の想像を遥かに超えていると思ってもらった方がいい……諦めるなら早い方が君のためにも……」
「諦めません。絶対に奏君をおピュッピュさせてみせます。……もう覚悟は決めました。嫌ですけれど……奏君に見放されてしまうのはもっと嫌なので……」
「え。そ、それはどういう……」
「内緒です♪ 次のお楽しみです♪ あ、お楽しみと言えば――じゃじゃーん♪ お約束通り自家製ヨーグルト持ってきましたよ♪ もちろんお弁当もですっ」
「えっ、ホントに?」
にかっとはにかみながら保冷バッグを掲げる綾恵さん。かわいい。素直に嬉しい。こうやって恋人っぽい経験を重ねれば重ねるほど寝取られてしまったときの裏切られた感が増す。全然素直な嬉しさじゃなかった。
「あ、そうだ、僕もあれ渡さないと……はい」
スクールバッグから封筒を取り出し、綾恵さんに手渡す。
「え…………三千円……何でしょうか、これ」
「ん? バイク便の経費。足りなかった?」
件の動画が記録されていたDVDの送料である。夜中にバイク便が来たときには何事かと思った。付き合い始めて初日の彼女からの疑似NTRビデオレターだった。
「いえいえ、頂けないですよ。昨夜のあれは奏君発による寝取らせではなく、私が奏君を興奮させるために私企画でやったことなのですから。すんすんっ、あ、奏君の匂い……♪」
「そういうわけにはいかないよ。てかお金だけじゃなく手間も余計にかかっちゃうだろうし、クラウドで共有するみたいな形でも構わなかったのに。僕、寝取られビデオレターにおける媒体のこだわりとか特にないし。まぁとにかく、僕のリストから発案された行動である以上は君が金銭を負担するっていうのはナシだよ」
「うーん、そうですか。これからお金が必要になるようならアルバイトでも始めようかと思っていたのですが……奏君のリストで紹介されていた居酒屋辺りで」
「え!? あのイベサー大学生がたくさん働いている!?」
「でも必要なさそうですね♪ 奏君と一緒にいる時間が削られてしまうのも嫌ですし♪」
「くそぉ……」
そういえばあのバイク便のお兄さんも日焼け具合がいい感じだったな。リストに追加しておこう。
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