大地の微笑みアース・ブレス・・・ちょっと、おイタが過ぎるぜ?」

悪魔を吹き飛ばしたのはグランツであった。


「大丈夫か?ほら、たって逃げろ」

へたり込んでる母子を逃がすと、悪魔の方に向き直った。


「痛ぇ・・おまえ、面白くないな」

壊れた家屋の中から首をポキポキと鳴らしながら出てきて、悪魔はそう言い終わると同時に、グランツへ飛びかかった。


「フンッ!」

グランツは、向かってくる悪魔を拳で振り抜いた。


「ブヘッ・・・・・・・・」

悪魔はまたも吹き飛ばされた。


「痛え・・お前嫌な感じするな」

悪魔は眉間に皺を寄せ、姿勢を低くした。


「俺も嫌な感じするぜ?悪魔ってのもそうだが、俺の拳を喰らってピンピンしてる奴なんてそういないぞ・・・」

グランツもより一層警戒心を強め、姿勢を屈めた。


「オラッ!」

悪魔は気合いをはくと共に、一直線に飛び込んでいった。


「同じこと何度やっても変わらないぞ?」

グランツはまたも大きく弧を描くようにい拳を振るった。


「だろうなぁ」

「!?」

悪魔はそういうと、拳を躱し、グランツの背後をとった。


「まず、1回目ぇ」

「ぐぅっ!・・・・」

グランツはなんとか身を捻って攻撃を躱そうとしたが、悪魔の手は、グランツの脇腹をえぐっていた。


「まじか・・俺の肉体にやすやすと傷をつけるか・・こりゃまいったね」

グランツは、自身の傷の具合を確かめ、ボソリと呟いた。


「うへ、まずい」

悪魔は、余裕そうに、手についた血を舐めると顔をしかめた。


「あと何回で、美味しくなるんだ???」

悪魔はニチャァとよだれを垂らしながら笑った。

「知るか!」

今度は、グランツから飛び出した。


「お前は、俺に勝てない。アハハハ」

悪魔も迎え撃つように飛び出した。


お互い素手どうしの戦いとは思えない程の音があちらこちらで鳴り響き、その動きを追える者はその場にいなかった。


「うっ・・」

「2回目」

互角に見えた戦いに、先に攻撃を受けたのはグランツであった。


「危険なしっぽ付けてるじゃねぇか」

「イカすだろぉ?」

その手札の多さ、1枚の差が、勝負を分けた。


「脚やられちまったか・・」

太ももからドクドクと流れる血を、悔しそうにグランツは眺めた。


「付いてこられるか?その脚で」

大地の微笑みアース・ブレスと健康な身体をもってして、やっと追いついていたグランツにとって、その機動力を失う事は非常事態であった。


「ほらほら、どうした?仕掛けてこないのか?」

悪魔は、グランツにヒットアンドアウェイを繰り返し、グランツは血の流しすぎで力が入らず、防戦一方となっていた。


クラっ

グランツの脚の力が抜け、体勢を崩した隙を悪魔は見逃さなかった。



「3回目ぇ!」

悪魔がひときわ大きく叫ぶと、目にもとまらぬ早さでグランツに近づいた。



「『炎の襲来フレイム・レイド』」


「チッ!!・・」

悪魔は、飛んできた魔法をのけぞることで避けた。


「グランツさん!大丈夫ですか」

ロイとユリが、グランツと悪魔を遮るように立ちはだかった。


「何とかな」

グランツは無理矢理立ち上がりながら応えた。


「すまねえ、遅くなった」

ロイは悪魔をまっすぐ睨め付けながら、歯ぎしりした。


「『光の花セイクリッド・フラワー』・・グランツさんがここまで苦戦するとは・・・あの悪魔、やりますね・・・」

ユリはグランツを回復しながら、少し不安げな顔をした。



「うーん、今じゃないな・・・それッ!」

悪魔は3人をみると、少し考える素振りをし、地面を殴り、砂を3人にめがけて飛ばした。


「何だ!・・ゴホッゴホッ」

流石と言うべきか、3人は、飛んでくる小石にも恐れず、薄目ながらもしっかりと、砂煙を睨み付け、警戒していた。



「・・・いない!?」

砂煙が落ち着くと、目の前から悪魔が消えていた。


「くそ・・・逃げられたか・・」

グランツがそう呟くと、3人は警戒を解いた。


「そう言えば、他の奴らは?」

一息つきながらグランツは尋ねた。


「エリーナとミルカが住民を率いて避難させてる。ラーファは他の地区の救助に行ってる」

ロイが答えると、グランツは手を顎にやった。


「急いで、ラーファと合流しよう。なんだか、1人にしてはいけない気がする・・」

グランツが呟くと、2人は頷き、走り出した。




「アハハハ、やっぱりうまいなぁ。簡単に死ぬ方がお得だなぁ・・・でもやっぱり、あの顔を歪ませたいよなぁ」

悪魔は、3人から逃げると、別の場所でまた被害をもたらしていた。


その大きさは、既に5メートルを超え、一口で人間を丸呑みにするほどであった。



「精霊の扉を開き、彼の者を切り裂け!風の刃ウィンド・カッター!」


「・・・かゆい、かゆい」

悪魔はニヤリとして、振り返った。


「はやく!今のうちに逃げろ!」

攻撃が効いていないことに、焦りを感じつつも、住民にそんな素振りを見せる事なく、気丈に振る舞った。


「ヒヒッ」

悪魔がニチャァと笑うと、姿を消した。


「!?」

「ここ」

ボキッ

ずっと睨み付けていた、悪魔が突然消えたことに驚いたラーファは、後ろから声がしたと思ったら、全身に衝撃が走り、意識が遠のいた。

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