時間を潰すとはイコールで酒を飲む事のキールは今日も酒場「ゴールドラッシュ」に来ていた。




「おい、来たぜ。もう冒険者達は出発したらしいからな。あとはキールが動くだけだぞ」


店内にいる、キールの周りの冒険者やギルド職員は、彼が発する言葉を聞き逃すまいと、耳を傾けていた。




「・・・・・・」


しかし、キールは何も喋らずチビチビとお酒を嗜んでいた。




それに対し、いつもと違う様子が周りの不安を作り上げていった。




「おい、なんだかいつもと違わねぇか?」


「確かに、まさかあいつをもってしても今回は厳しいのか?」


「まじかよ、やばいな。覚悟を決めて討伐に変更するか・・」


「まさか、機を伺っているとかはないよな」


そんな言葉があふれ始めた頃






「よし、そろそろ行くかぁ」


キールがそう呟くと周りは目を輝かせた。






「やっぱり、機をうかがっていたんだ」


「俺等の知らないところで、何かを待っていたのかもな」


キールの一言で一喜一憂するのであった。






お代を払いキールは外に出ると、会社には戻らず、流石のミルカもそろそろお腹すかせて帰ってくるだろうから待っていようと考え、ミルカを見送った草原に向かった。




草原に向かうため門をくぐろうとすると、門番から声をかけられた。




「キール様ですね。冒険者の方達からお話は伺っております。馬車も用意したありますので、こちらへどうぞ」




「え?」




「さあ、早く」






キールは馬車に揺られていた。あの場を押し切られ、馬車の中で話を伺うと、どうやら今、北の方にある村で、村人がモンスターとなる事件が起きているらしい。それを俺が解決するために向かっているから、急ぐため馬車を用意したのだとか。




「全くもってどういうことだ・・」




いままで、こういった無茶なお願いをされることは時々あるが、実際にここまで強引なやり方をされたことはないぞ!




キールはどうしたら良いのか分からずにただ空を見ていた。




「ああ、雲になりたい」








所変わって、北にある村「レミニ村」では、冒険者達がたった今到着したところであった。




「くそ、むごすぎる・・」


荒々しく崩れた家屋や、道端に転がるモンスターの死体をみて、彼らは悲しみを覚えた。




すると、冒険者達に気づいたのか、モンスターは彼らに攻撃し始めた。




「お前等、気合い入れろよ」


一人が活を入れ、向かい討とうとした。




「う、うあああああああ」


すると、冒険者のうち何人かが錯乱し始めた。




錯乱した彼らをよく見ると、みるみる身体が変形していき、身体の肉が膨れ上がり、装備をも飲み込み、モンスターに変わっていった。




「おい、そいつらを押さえろ!」


虫型、爬虫類型、死者型、鳥型、多種多様な元仲間を捕縛するように命令するも、まるで連鎖していくかのように次々と仲間が変わっていった。あまりに唐突のこと過ぎて、持っている龍晶華を使うことが頭から抜けていた。




「くそ、こんな急に。一体どうなってやがる・・・」


そう呟くと、冒険者達の目の前に突如一体のモンスターが現れた。




「ジジジジジ、拒絶こそ本能。この感情は感染する」


そのゴキブリを人間程の大きさにして、全身を布で隠した二足歩行のモンスターがいた。




「お前が緑の悪魔「感染の悪魔」か・・・」


冒険者の1人が睨み付けながら尋ねた。




「いかにも。私の前には精神的に弱い物は正気を保つことは許されない」


変化のない表情だったが、声からこの状況を楽しんでいることを悟った。




「ふん!」


そんな悪魔を倒すべく、斬りかかるも難なく避けられてしまった。




「ジジジジ、私のスピードは悪魔の中でもトップレベルだ。追いつけないよ。お前等の相手は、コイツに任せよう。」


そう悪魔が言うと、空から雄叫びが響いた。そちらを見上げると、黒いワイバーンが空を舞っていた。




そのワイバーンは急降下して冒険者達を襲い始めた。




攻撃されるたびに、なんとか防いで、その度に1人また1人とモンスターに変わっていった。その度に自分たちが持っている龍晶華を咀嚼し






そうして、少しずつ冒険者達が劣勢になり始めた頃、ひとりの男が現れた。




「あれ、結構ヤバめ?」


馬車に連れられたキールが現れた。




キールが緊張感のない声でそういうと、新しい獲物が出て来たと思ったのかワイバーンはキールをめがけて襲いかかった。




「おい!逃げろ!」


冒険者達の中でキールの武力的な実力は未知数であったが、少なくとも強いという事を聞いたことはなかった。




しかし、キールは一切そこから動かず、逃げる素振りもなく、ただその場にたちワイバーンを見ていた。




「GOAAAAAAAAAAAAAAAA」


ワイバーンがキールの目の前に迫った。




そしてキールは目をつむり、静かな、誰にも聞こえないような声で呟いた。


「俺はどこかで野垂れ死ぬと思っていた。まったく良い人生だった。強そうな君に殺されるなら良い思い出だ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る