成功
「・・・それじゃあ、少し遠くまで行ってくる」
翌日ミルカ達は再び草原に来ていた。
「なんか面白い物とか落ちてたら拾ってきてよ。コレクションに加えるから」
キールは今にも飛び出そうとうずうずしているミルカに頼み事をした。キールは趣味が合うミルカに度々こういったお願いをすることがあった。
「・・・わかった」
そう言うとミルカはすぐさま飛び立った。その華麗さは前回とは比較にならないほどであった。
「こんなスピードで完成させちゃうんだもんな。エジソンもびっくりだな」
キールはもう米粒ほどの大きさになったミルカを見上げて、会社に戻った。
「どうすればいいんだ!まだ手に入らないのか!龍晶華は!!!」
冒険者ギルドの中から表へ怒号が飛んでいた。
「村の人間が全て一晩で消え、モンスターが跋扈しているなど緑の悪魔「感染の悪魔」で間違いないのだ!お伽噺よりだいぶ強化されているらしいが、あいつの能力でないと説明がつかない!」
ギルド長がこれほど焦っているのには理由があった。つい先ほど見つかった現象と共に、そのモンスター達は一斉に争いだしたのである。
「くそ、中には我が子を手にかけた者も居るだろう。親友と別れた者も居るだろう。彼等を正気に戻すのは酷だが、これ以上そんな人を増やしてはいけない。だから一刻も早く!龍晶華を集めるんだ」
「我がギルドだけでなく、他のギルドも集めているだろう。しかし、それらを集めても到底足りないだろう。他のギルドだけではな・・・」
「と言いますと?」
秘書がギルド長におそるおそる聞き返した。
「あの会社があるだろう。我々いや、他の誰も知らないことを知り、思いつかないことを思いつく男が・・・」
秘書はハッとした顔をした。
「よって、我々はできるだけモンスター化した人間を元に戻し、殺さずに押さえ込み、どうしてもという場合にのみ許可する。時間稼ぎさえしていれば、あの男がなんとかするだろう」
ギルド長のその声には頼ることしか出来ない自分たちのふがいなさが見え隠れしていた。
そういい、冒険者ギルドは出発の準備を進めていった。
それから数時間後の北の山、龍の帰り場にて
「・・・これだけあれば、社長も喜ぶはず」
ミルカは魔法バッグのなかのパンパンに詰まった龍晶華をみた。
「・・・しつこい」
ミルカは先ほどから次々と襲いかかってくるワイバーンを避けながら龍晶華を積んでいた。それは鞄にいっぱいになり、帰ろうとしても、ワイバーンは追いかけてきた。
移動速度としてはワイバーンを凌駕していたが、その数は脅威で徐々に追い込まれるようにして、誘導されていた。
「・・・・!?」
ある瞬間に、後ろのワイバーンの気配そして姿も消えた。
ミルカは警戒したままその場にとどまっていると、声が聞こえてきた。
こっち、いそいで・・
知的探究心の塊であるミルカは、自身の危険度と天秤にかけ、一瞬にして傾いた声のする方に行くという選択肢をとった。
「・・・なにこれ、上から見たときはこんなの無かった」
歩いてすぐの所に、屋根の崩れた神殿のような建造物があり、その中央に石碑があった。
いそいでという言葉が頭の中をぐるぐると回っているが、ミルカはそれを後回しにして石碑や周りの建造物に掘られている文字のような模様を、紙に書き写していった。
やっとのことで写し終えたミルカは、せっかくなのだからと龍晶華を一輪お供えした。
すると、今までの光景が嘘かのように、見覚えのある龍の還り場の岩肌へ戻った。
不思議に思いしばらくその場で色々調査を進めていたが、痕跡の一つも見つけられず、渋々と帰ることにした。
飛んでいると少しお腹がすいてきたので、遠目に見えた村により、少し食べてから帰ろうと思い、近づいていくと異変に気づいた。
村中にモンスターが跋扈していた。しかも、何種類もの違う種が一カ所に存在していたのである。あり得ない自体に、もう少し詳しく調べるために近づいた。
「・・・!?」
そこでミルカが見たのは、親のモンスターが子どもと思われるモンスターをよってたかって攻撃していたのだ。子どもは為す術無く、力なくうずくまっているだけだった。
「・・・あ、あ、いやああ・・」
ミルカは少し昔のことを思い出していた。自分の事を奇異の目で見てくる両親、そこから生まれた亀裂、その過去を。
そこでミルカの意識はプツンと途切れた。
「社長!ミルカ研究長を連れ戻してください!」
「ん?どうしたの?」
「研究長にしか出来ない仕事がどんどんたまっていって、実験中だった薬品もそのままなんです!あの人は面白いこと見つけるとすぐ目移りするから、日頃部下の僕らが変な物を見つけないように目を光らせているんですけどね・・・」
「あはは、まぁ頑張って連れ戻してくるよ」
ジトーとみてくる社員の目線に耐えきれなくなったのか、適当な約束をしてしまった。
「絶対ですよ!」
そう言い社員の1人が去って行くのを見届けた。
「とりあえず、どこかで時間潰して探したふりをするか」
いつでも変わらないキールであった。
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