拒絶
身体が言うことを聞かない。ただ目の前で流れる映像を見ているような感覚だった。どうすれば良いの分からない。こんな自分が嫌になる。
冒険者たちが見える。私は彼らを襲いだした。
そこにふと1人の男が視界の端に映った。群れの弱い部分から襲う。これは対複数戦において重要だ。私はその男に喰らいかかった。
・・!!ダメっ、社長!なぜそこに居るの!こんな私を見ないで!お願いだから逃げて!
「強そうな君に殺されるなら良い思い出だ」
!!・・なんで、そんな優しいことを言ってくれるの?なんで、こんな私を再び受け入れてくれるの?・・・・ありがとう。最期に私を受け入れてくれて、そして・・・ごめんなさい。
私は来たるべき恐怖と罪に、目を瞑り、自分自身の人生を呪った。
「俺はどこかで野垂れ死ぬと思っていた。まったく良い人生だった。強そうな君に殺されるなら良い思い出だ」
そう呟いたキールの言葉は本心だった。ドラゴンと呼ばれるモンスターにやられるなら良い人生だと。彼は良い意味でも悪い意味でも諦めが早かった。
・・・あれ?
来る痛みに備えていたが、一向に痛みが襲ってこない。キールは、痛みも感じないほどに一瞬で喰われたのかと思い、力を抜き、目を開けてみた。
すると目の前には、見覚えのある黒髪の少女が目に涙を浮かべこちらを見ていた。
「やぁ、ミルカ。おかえり」
キールは何が起きたのか全く分かっていなかったが、出かけていたはずのミルカが目の前に居たので、とりあえず声をかけた。
「・・・うん、ただいま」
ミルカは今までに見たことないほどの笑顔で応えた。
「どうなってやがる。ワイバーンが人に戻ったのか?」
遠くから見ていた冒険者はその光景に驚いていた。
だが、驚いていたのは冒険者たちだけではなかった。
「ジジ!!元に戻っただと!あいつは拒絶・・しなかったというのか!」
ベテランの冒険者になればなるほど集中力を切らさないとはこのことなのだろうか。彼らはその悪魔の言葉を聞き逃さなかった。
「拒絶?なるほどな。その感情が変身の媒体というわけか。その恐怖にも近い感情は集団になればなるほど連鎖していく。まさに感染の悪魔ってわけか。さらに言えばその逆の感情で受け入れることがワクチンとなると・・」
「ジジジジ、全くもって愚か。そう簡単に感情はコントロールできるものではない。それに元に戻るには膨大な魔力を必要とする。そう簡単には戻せぬ。まずはあの男を・・・殺す!!」
悪魔はモンスターを受け入れた実績のあるキールを脅威と感じたのか、キールに向かって高速で迫り、その爪でキールに斬りかかった。
「・・・させると思う?」
それをミルカが風魔法で牽制した。
「ジジジ、恐るるに足らない。私の機動力をもってすれば、貴様を避けつつ攻撃することは容易である」
「・・・今なら、機動力も負けない」
「ジジジ、では、お手並み拝見と行くぞ」
そこからは、お互いが目で追えないようなスピードで攻撃し合い、空中にあちらこちらで火花を散らしあっていた。
「・・・くっ」
常人には見えないが、ぶつかり合う瞬間の近接戦闘においては、悪魔の方が一歩リードしているようであった。
「・・・けど、ここで引くわけには行かない」
ここで、引いてしまえばキールが狙われるのだから。
ミルカは反撃することに決めた。未だ知らぬ自分の中にある力を使うことを。龍の還り場にで起きた不思議な現象から自分の中にあふれる言葉を。どんなことが起きるか分からないがこの現状を打破できるなら。
「・・・これで、きめる!・・空のスカイゴフッ」
魔法を唱えようとした瞬間、悪魔が接近しミルカを殴り阻止した。
「ジジ、やはり精霊の守人であったか、こしゃくな。しかし、魔法士に対しては発動よりも前に攻撃してやれば問題ない」
再び、悪魔とミルカの空中戦闘が始まるが、先ほどより明らかにミルカが劣勢であった。
どれだけ、形勢を立て直そうとしても、積み重なったダメージがミルカの判断力、気力、を鈍らせ、限界に近い体力では悪魔から逃げることは出来なかった。
「ジジジジ、まだまだ弱いな」
ミルカはもう、ただただ殴られているだけであった。そして、最後の一撃とばかりに悪魔の大きく振りかぶった一撃は、確実にミルカを捉え、地面に叩きつけられた。
「・・・・・・・・・ゴフっ」
地面に横たわるミルカはかろうじて息をしていた。
「ジジジ、そちらが虫の息とは面白い冗談だ。さてと私は最後の始末をしよう」
悪魔はミルカを一瞥すると、キールの方を見た。
そうして悪魔がキールの方へ歩き出した。
「そうはさせねぇよ」
冒険者たちがキールと悪魔の間に立ちはだかった。
「みんな・・・」
キールはおびえながら、少しの安堵で冒険者たちを見た。
「ジジジ、お前たちでは時間稼ぎ程度にしかならない」
「そんなことは、分かってるんだよ。それでも、コイツだけは、この男だけは死んで貰うわけにはいかねぇ。時間稼ぎさえすれば、なんとかしてくれるだろうよ」
「ジジジ、この状況からか。やれるもんならやってみろ」
そう言い終わったと同時に、悪魔は走り出し、冒険者たちに向かっていった。
「うわ!」
「くそ!」
「腕がぁ!」
ある者はなんとか攻撃を防ぎ、ある者は身体を切り刻まれ、そこに反撃を与えられる者は居なかった。
「くそおおお」
ひとり、またひとりと倒れていった。
もう冒険者たちも数える程度しかいなくなった。キールはもう逃げられないと悟ったのか彼らの前に出た。
「もう大丈夫だよ。もういいんだ」
キールは彼らをなだめるように言った。
「どういうことだ・・」
「ジジジ、諦めがついたと言うことだろう」
冒険者たちの問いに、悪魔が答えた。
「ジジジジ、ならば楽に殺してやる!」
悪魔が今度こそとキールに迫った。
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