シュアル

「ただいまー」


翌日、キールが配達会社グリフォンフライに着き、我が家と言わんばかりに語尾を伸ばして気の抜けた声を出した。


・・・なんかすごい見られてるなぁ。



辺りを見渡す社員が全員キールのことを見ていた。だが、キールも社長なので会社で社員に視線を向けられることは慣れていた。だがキールが違和感を持ったのは、いつもとその視線の種類が違ったからだ。


(((((ま た 何 か し ま し た ね)))))



「そんな目で見ないでおくれ」


キールがいたたまれずにそうぼやいていると


「社長!!今度は一体なにをしたんですか!!」


エリーナが2階から階段を駆け下りながら普段出さないような声を上げ、キールを責め立てた。


「何のことだかわかんないんだけど」


「先日大きな仕事がまいこんで、砂漠国シュアルに行く予定でしたのに!社長が王城に連れて行かれた翌日に保安局が少数の部隊をシュアルに向かわせ!冒険者ギルドにも依頼を出しています!なんで!先に教えてくれないんですか!!」


「そんなこと言われても・・・」


「せめてこの仕事が引き受ける前でしたらなんとかなったのに!」


「あはは、仕方ないね」

ニコニコ


「あーもう、これは人員を変えないと、一気に難易度が跳ね上がりましたよ、でも今手が空いてる人なんて・・・」



「じゃあ、俺が決めてあげるよ」



ザワザワ・・・・


キールが今まで自分から誰かを指定したことはない。だがしかし、その場の成り行きで必ずそのとき必要な人材が選ばれていたのだ。それを周りはキールの采配によるものだと思っている。


だからなのか、自分が危険な場所に行かせられる不安ともしかしたら自分が何かを秘めているのではないかという期待がその場を入り乱れていた。


だがしだいに、不安が大きくなっていったのか、皆黙りはじめた。


「うーん、誰にしようかな。そうだ!扉の横にいる君からね!」


キールは顎にやっていた手の形を変え、人差し指で天井を指し



「だ れ に し よ う か な・・・・・・」


視界の端にいる人間から、1人ずつ指をさしはじめた。



「社長!それはいくらなんでも!」


「て ん の か み さ ま の・・・・・」


「適当すぎます!誰でも出来る仕事じゃないんです!」


「い う と お・・・」


バンッ

「帰ったぞ~」

「り!」


ちょうど部屋の中を一周したとき、扉から現れた筋骨隆々の男に指が止まった。


「ははは、どうしたんだ?」


その場には安堵する顔が大半と驚きの表情が少し、何が起きてるか分からずにとりあえず笑ってる者が1人いた。



「グランツさん!!帰ってきたんですね!」


エリーナがそう言うと、グランツは他の社員たちにすぐさま囲まれ、その人望の高さがうかがえた。



「ところで社長さっきのはなんだったんだ?」


「ん、新しい仕事を誰にするか決めてたんだけど、ちょうど良かったよ」


グランツが人の塊の中から質問をすると、キールは何事もないように答えた。



グランツぐらいのベテランだったらエリーナも許してくれそうだしね



「人使いがあらい社長だなぁ、ははは」



「ちょうど良いタイミングだからね」

ちょうど良く登場してくれたからね



「まぁ、たしかにちょうどいいのかもな」

何故知ってるかは毎度のことながら、たしかに新しい力が増えてちょうど試したかったんだよな



「とりあえず仕事のことについてはエリーナにきいといて!僕は出かけてくるよ」




一方、王都から南に行き、砂漠国シュアルまでの道中



「局長、本当に悪魔は現れるのでしょうか、もし現れたとしても我々だけで対処できるのでしょうか」


「ミモルグ、お主は悪い意味で貴族意識が強すぎる。いかにあやつが平民であったとしても、その実績は称賛に値する。この儂でさえ、あやつの全貌をつかめなかった。」


「私には普通の人間のように思いますが」


「それが本当だとしたら今までの事に説明がつかぬわ。そして今我々がすべきことは悪魔の討伐ではなく、姫様の保護だ。だがしかし、いつか討伐せねばならぬのもまた事実」


「冒険者だけでなく、我々が討伐しないと威厳が保てませんからね」



そうして、シーフォリア一行は馬を走らせていった。


その先の砂漠国シュアルでは


「はぁ、つかれました。そろそろ帰りたいと思ってしまいますね。二週間もこうして会食やら、市場調査報告会で勉強をしていると」


「もうしばしの辛抱で御座います。」


オルガノ王国第3王女アントレットは一緒に王国から連れてきた世話係のメイドに愚痴をこぼしていた。



オルガノ王国とシュアルでは数年に一度、王族同士の中から1人をお互いに、世間を知るための勉強として交換留学のような制度をとっていた。だが実際は、不戦条約のための抑止力になっている部分が大きかった。


「そうですわ、退屈しのぎに少し街を歩きにいきます」


突然の申し出でにもメイドは慣れているようで、すぐに支度をし始めた。



「なんだか、ここ最近はより一層熱いですね」


あまりの暑さに、馬車の窓を開けていると


「たすけてくれ!!」

すぐ側で大きな声が辺りの道路に響いた。

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