ロイ
カサカサカサカサカサカサ
声のする方を見ると小さなサソリの大群が男を追いかけていた。
「姫様、少し急ぎます」
馬車は進路変更して、馬を急がせた。
「うわ、うわああああ、くるな!!」
男は道路でつまずき、思い切り顔から転んでしまった。その瞬間を見逃さないと、サソリの大群は一斉にその距離を縮め、襲いかかった。
「火球」
どこからかよく通る声が聞こえ、サソリに直撃すると、すべてとはいかないが大半は焼け焦げ、生き残ったサソリも、動けずにいた。
「大丈夫か、何があった」
グシャと残りのサソリを踏み潰して男は転んだ男に手を差し伸べた。
「姫様事が事なので1回戻ります」
「ええ」
馬車は来た道を戻り、ちらっと窓から二人の男をみて去って行った。
「ロイさん!!ありがとうございます」
「はぁ、俺の名前を知ってたのか」
「もちろん、この国であなたを知らない人はいませんよ」
「ありがとよ、ところで何があったんだ」
ロイは嬉しさを露わにする男をなだめながら状況をつかもうとした。
「それが、たまたま道端でサソリを見つけたもんだから、誰かが刺されねえようにと踏み潰したら、まわりのサソリが一斉に襲いかかってきて、逃げていくウチにあんな大群になってました」
男は思い出して身を震わせながら語った。
「ふむ、何か異変が起きているのかもな。少し調べてみるか」
ロイは男に気をつけろよと声をかけその場をあとにした。
翌日、ロイはただ街の外れをぶらぶらしていた。
「んー普段はあれだけ見かけるサソリも、こう探しに行くとなんで見つからないんだ」
ロイは昨日の男のようにサソリを踏み潰し、自分自身を襲わせ観察しようとしていた。昨日は緊急事態で殺さなければ、男がやられていたが、今回は対象が自分自身なので、うまくいくだろうと楽観視していた。
あれから数日がが経過した。
「たまに見かけるヤツは踏み潰しても襲ってこねえしな。なんか特別な理由でもあったのか」
サソリの凶暴化の解明には時間がかかっていた。この前遭遇した時間帯で行っていたが収穫はなかった。日が暮れ夜になれば宿に戻るという事をもう何日もしていた。
ただ今日はいつもと違った。宿に帰ってくると
「よう、ロイ調子はどうだい?」
宿の一階の居酒屋では、同僚のグランツがいた。
「あれ、グランツじゃねぇか、どうしてここにいるんだ」
「お前と同じで仕事だよ、ついでに冒険者業もちょこっとな」
ロイとグランツは会社が出来て最初の方に入社し、お互いに気の知れた中であった。
そんな彼らが久しぶりに出会えば飲むことは必須であり、会話に花が咲いた。
「ところで、今日は何してたんだ?」
「あー、サソリを探してたんだ」
「サソリ?」
ロイは数日前に起こった出来事を話した。
「それは社長案件かも知れないな」
グランツは少し前から王都で起きていることをロイに伝えた。
「悪魔かぁ、そう考えるとなんだか納得しちゃったな。さらに社長が関わってくるとなるといよいよだな」
「明日から俺もサソリ探し手伝うよ」
こうして二人の再会は幕を閉じた。
一方、二日前の砂漠国シュアルの貴族御用達の高級宿では
「姫様、緊急事態につき、王国に戻っていただきたく参上致しました」
「緊急事態?お父様の身に何かありましたの?」
「いえ、ここ砂漠国シュアルにて悪魔が現れるとの情報をつかみましたので、姫様を保護させて頂に参りました」
そこで、アントレットは先日の人を襲っていた大量のサソリを思い出し、背筋を凍らせた。
「ですが、私の身はここシュアルにて不戦条約の要です。シュアル側が納得していただけるかどうか・・・」
「ですので、国王様に許可をいただきお手紙をお預かりしています。既にそれを相手側に渡して許可をいただいております」
「分かりました。では帰る支度をします。あなたたちも数日休んで休息してください」
「承知致しました」
アントレットとシーフォリア達が出会った数日後
ロイとグランツは捜査範囲を広げて街の外に来ていた。
「まさかここまでする事になるとは最初は思わなかったな。よっと」
「でも、俺は久しぶりの共闘で楽しいぞ」
二人はサバンナで次々と現れるサンドワームを一体、また一体と倒していた。
「俺もだけど、キリがねぇよ」
そう愚痴っていると、ふとサンドワーム達は攻撃をやめ、あさっての方を見た。
二人は一瞬何事かと思ったが、それに気づきすぐさま駆けだした。その数俊後サンドワーム達も先ほどまで見ていた方へ地面の中に潜り進み出した。
「待て待て、あれってたぶん王国のシンボルだよな」
「ここからじゃはっきりとは見えないがおそらくな」
サンドワームがあの距離を認知して、急に攻撃対象を変えるとは到底思えない。
そこで、ふと頭の片隅に社長が浮かんできた。
「まったくあの人は何処まで知ってやっているんだ」
「おい!王国の人か!もっと馬を走らせろ!サンドワームの標的になっているぞ!」
馬車を気遣ってか、ゆっくり進んでいる一行を急がせた。
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