保安局

「お主に頼みがある」

立派な長い白髭を手で梳きながら歳を感じさせないほどの眼光を宿した男性はキールの目を見ながら開口一番に言った。


「私に頼みですか・・」


キールは王城の一室の見るだけで高いと分かるソファに、背をもたれかけることも出来ずに足を揃えて座っていた。




遡ること1時間前


「ここにキールという者はいるか!!」


勢いよく開けられたドアの方に一瞬その場にいる全員の目線が向けられ、そのすぐあとに、全員の目線がキールの方に向けられた。



こっちをみるな!明らかにめんどくさそうでしょ!



「そなたがキールか、国王直属保安局から招集令がだされている。ご同行願いたい」



「保安局に呼び出されるなんて何をしたんだ?」

「いや、おそらくキールの力を借りに来たんじゃないか」

「遂にか、今までは国のプライドか、キールを頼ることはなかったが、そうも言ってられない事情があるのだろう」

「悪魔の件か」


冒険者たちが口々に予想をしていると


ギロッ

ドアを開けた男が睨んだ。それだけでその場は少し静かになった。



「兎にも角にも、招集令だ。そなたは冒険者ではなく、この国で店舗を構えている国民という立ち位置だ。来て貰うぞ」


「分かりました。その前にあなたのお名前をお聞かせ願えますか」


「!、これは失礼した。恥ずかしながら急いでいたため忘れていた。私は、王国直属保安局戦略部のミモルグ=サイントだ。」


「宜しくお願いします、サイントさん。では行きましょうか、ごめんねユリ、お代はここに置いておくから、まだまだ飲み足りないと思うし」



はぁ、行きたくないけど、人が多いところだから少し見栄を張ってしまったなぁ。どうにかしたら回避できたんじゃないだろうか。





そうして、案内されるがままについて行くと、4メートルほどの高さの軽く装飾を施された扉の前に着いた。



「失礼致します。配達会社グリフォンフライ社長キール殿をお連れ致しました。」


「入れ」


扉の前でミモルグが扉の向こうに声をかけると、部屋の中からいかにもらしい渋い声が返ってきた。



「私が王国直属保安局局長兼戦略部担当のシーフォリオ=スクォークだ。楽にしてくれ」


キールは目の前にあったソファに腰をかけるも緊張を解けないでいた。


今まで貴族を相手に商談したことも数度あったけどこの人は別格で威厳があるな。特に最近、そういうのはエリーナに任せっきりだったから、余計に緊張するなぁ。


「よく来てくれた」


「いえ、お構いなく」

強制だったけどな!


「礼を言う。早速本題に入らせて貰うが・・お主に頼みがある」


「私に頼みですか・・」


「連日の騒ぎの件だが、悪魔が現れたのは初代勇者であり初代国王様が屠ったとき以来のことだ。そして保安局としては、これは初代様が仰っていった、王国に危機が訪れようとしているという結論に至った。」


「あのお伽噺のですか?」


「そうだ。そこでお主には2点頼みたいことがある。1つ目は悪魔の情報をこちらに提供すること。2つ目は初代様の、国民に託したと言われる財宝を見つけ出すことだ」



「うーん、1つ目はともかく、2つ目は難しいと思います」


「確かに、その財宝がなんなのかさえ分かっていないからな。もしかしたら他国にわたっているかも知れない。なので、これは出来るだけで良い」



それだったらなんとかなるかな。1つ目は知ってたらの話だもんね。なかなか知らないけど、ていうか冒険者ギルドに聞けば良いのに、職業柄、商人や土地の情報とかにはある程度詳しいけども。



「承知致しました。微力ながらも協力させていただきます」


「うむ、では早速今もっている情報などはあるか?」


・・・ないよ、けど雰囲気的に言える感じじゃないなぁ、どうしよう。


「ほう、タダで渡す気はないと言うことか。王国に交渉を持ちかけるとは良い度胸だな」

考え込んでいて黙っていたキールを、どう受け取ったのかシーフォリオはニヤリと笑った。


「いえいえ、そのようなことでは、少し思い出していただけですよ」


「ほう、ならば情報を渡してくれるのだな?」


もうやめてくれよ!ダメだ・・・緊張しすぎて喉が渇いてきた。とりあえず何か飲み物を貰おう。


「み、水なんかは・・」


「ミミズだと?どういうことだ?」


どう聞こえたんだこの爺さんは、水が欲しいだけなんだが。


「いや、水を求めただけです」


「水を求めているミミズ?サンドワームか?あれは南の砂漠国シュアル付近でしか見られないが・・・ハッ、あそこには今は姫様が!!」


キールの言葉で何かを思い出したのか様子が急変した。


「すまない、対談はここまでだ。ミモルグすぐに軍を編成させろ!シュアルに向かうぞ!!」


「ハッ!!」

シーフォリアはミモルグに指揮し、勢いよく部屋を出て行った。






「え?・・・あ、どうも」

キールは少しして入ってきたメイドに連れられるまで、部屋で1人取り残されていた。


「なんか、よくわかんなかったな。喉渇いたな、なんかジュース買って帰ろう。疲れた」

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