最終話 「貴方と生きていきたい」

 


 ――――――一瞬、世界から全ての音が消えてしまったかのように感じた。



 今、彼は、何と言った。


 夜空に浮かぶ月を見上げての感想?


 いいえ、そんなはずないわ。

 だって彼は知っているはずだもの。その言葉に、どんな意味が込められているのか。

 そんな、逆光になっていても分かるくらい、耳まで真っ赤に染めて……。


「…………っ」


 それを理解した途端、全身が熱を持ったように熱くなった。

 だって初めてなんだもの。前世でも今世でも、こんなふうに正面から想いを伝えられたのは。


 なんで。どうして。いつから……。

 ぐるぐると、そんな思いばかりが思考を埋め尽くす。

 あらやだ、私ったらなんだか少女漫画のヒロインみたいじゃない? …………とか、なんとか、思ってみたりなんかして……。


「…………」


 分かってる、これは現実逃避だ。思考が彼から逃げている。


 それはなぜ。

 嫌だから? 困るから?


 いいえ、そんなことはないわ。


 だって、こんなにも。

 まるで心臓が壊れたみたいに、鼓動がうるさくてうるさくて、たまらないのに。


 いつまでも変わらない?


 そんなことない。

 それはきっと、いつもあたり前のように側にあったから、緩やかに訪れていた変化に気づいていなかっただけよ。


 だってほら、心はこんなにも、違う。


 あの頃は、この言葉を聞いたって、ただ微笑ましいと笑っただけで終わったのに。


 今はこんなにも、胸が熱くて苦しい。


 それはきっと、あの頃よりも、この人の存在が私の中で大きくなっていたから。


 鈍い子ね、と、母に笑われた意味をようやく知った。

 確かに私は鈍かった。ぜんぜん気づいていなかったんだから。

 この人の気持ちにも、自分の心にも。


 今まであんなにさんざん、中身は大人だ、なんて言ってきたのに。

 こんなんじゃ、セシルたちの前でお姉さんぶるなんて、できないじゃない。


「……ウェルジオ様」


 逃げては駄目。

 彼は正面からまっすぐに、自分の気持ちを伝えてくれたのだから。


 だから私も、ちゃんと向き合わなきゃ。


 アイスブルーの瞳がこちらを向く。

 至近距離で視線が絡み合い、背筋がムズムズするような、胸がざわざわするような、何とも言えない気恥ずかしさが全身を駆け巡る。


 繋がった手が熱い。

 きっと今、私の顔も、彼と同じくらい赤いのだろう。



 本来なら。

 この言葉に対する、正しい答えはひとつだ。


 だけど私は知っている。貴方がその言葉を決して喜ばないということを。


「ウェルジオ様、私……」



 だから私は、この言葉で答えを返すわ。


 月に乗せた愛の言葉へ返すには場違いの。

 けれど、貴方にだけは確かに伝わるだろう、この言葉で。



「私、貴方と――――――…………」



 貴方が嬉しいと言った言の葉を乗せて。









 私は彼に微笑んだ――――――――……。












―――――――――――――――



これにてアヴィリアの人生リセット計画『ライセット!』

終幕となります。


最後までお付き合いありがとうございましたーーーーっ!!

m(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m


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