第40話 一件落着……?
―――ごすっ!
そこに、弾丸のような勢いで枕が飛んできて、ウェルジオの体を思いっきりぶっ飛ばす。
…………もう一度言う。
弾丸のような勢いで枕が飛んできて、ウェルジオの体を思いっきりぶっ飛ばす。
ちょっと意味が分からないかしら? 大丈夫よ、私も意味が分からない。
でも彼に対して、こんなことやりそうな犯人にはめっっちゃ心当たりある。
そろりと後ろを振り向けば、恋人の敵を見るような目で実の兄を睨み付ける我が親友の姿が。
「……人が寝てる横でアヴィに何やらかしてくれてんのかしらぁあぁ〜? このセクハラおさわりド変態野郎…………」
「セシル!」
うねうねとメデューサの如く髪を揺らしながらおどろおどろしい声音で呪詛を吐く。
ここは室内で窓もしっかり閉じているはずなのに。一体どんな仕組みなのやら。
「ジオってさー、ヘタレなくせにフラグ立てるのだけはやたら上手いよね。もはや才能」
「何の話だ⁉」
妹と友人のあんまりな物言いに、枕をぶつけられた腹を押さえながらよろよろと立ち上がったウェルジオが抗議の声を上げた。
……なんか久々に不憫だな。
「でも、よかったよ。妹ちゃんも無事みたいで」
「顔色も良さそうだな……。調子はどうだ? 体に違和感を感じるとかないか?」
それぞれ心配の声をかけながらセシルに近づく。
「ええ、もう全然! …………ごめんなさい、心配かけて……」
「気にするな」
それに対し、笑って答えるセシルはいつもの調子を取り戻していて、二人はその様子にほっと息を漏らした。
ウェルジオにくしゃり、と頭を撫でられて、くすぐったそうに目を細める。
こういうのを見ると、兄妹っていいなって思う。私は一人っ子だからよけいに。
「それで? 闇の精霊は追い払えたのか?」
「はい。もう大丈夫のはずです」
「……あれから何があった?」
「そうだよ、何があったの?」
二人の視線が私とセシルに向く。
色々と手助けしてもらったし、事の顛末をきちんと報告すべきだということは、分かってはいるけど……。
「「…………」」
私はセシルと顔を見合わせ、同時にふっと笑みをこぼすと――――
「内緒です!」
「内緒よ!」
声を揃えて人差し指を唇に当てながら、そう言った。
「へ?」
「はあ?」
ぽかん、と呆気にとられる二人を横目に私たちはくすくす笑い合う。
どうやらお互い、同じことを思ったようだ。
あの場所であったこと。知ったこと。話したこと。
それは、私たちだけの秘密にしておきたい。
いつかは話すことがあるかもしれない。
それでも。
今はまだ、誰にも見せずに、私たちの中だけに、しまっておきたかったから。
「〜〜お前たち……っ、そんな言葉が通用すると……」
「まぁまぁ、いいじゃない。無事に丸く収まったんだし。これにて一件落着ってことで!」
「そういうわけには……」
「女同士の秘密に男は踏み込むべきじゃないよ」
「……………………はぁーーーー」
当然、納得できなかったウェルジオはさらなる追求をしようとしたが、レグに宥められるように肩を叩かれて、最終的にため息をこぼすだけに留まった。
とはいえ、決して納得したわけではないということは、その間の長さからひしひしと伝わってくる。
それでも深く踏み込んでこないのは、私たちの気持ちを尊重してくれているのと……、私たちを信頼してくれているから、だと思う。
そういうところが、いかにも彼らしくて、何故だか心の奥がじんわりと熱を帯びるような心地になる。
彼から向けられる信頼は純粋に嬉しい。できれば、それに応えたいとも思う。
けれど、レグと違って向こうの世界のことを知らないウェルジオには明かしていないこと、明かすことができないものも多くある。
非現実的な夢のような話は、到底信じられるようなものではないだろう。
だけど…………。
(いつか、全てを話せたら……)
彼なら、そんな非現実的な話でも、受け止めてくれるんじゃないかとも思うのだ。
私とセシル、そしてレグ。
そこに、彼の姿がないことが、どうしても想像できない。
いつの間にか、私たちは”四人“だということがあたり前になっている。
だからこそ、彼にも知ってもらいたいと思うのだ。
お父様にもお母様にも、思わなかったこと。
彼に、知ってもらえたらと。
そう、強く思った――――――……。
「やあ、みんな。とっても賑やかだね」
そこに、地を這うような低い声が響いて部屋の中を一瞬で氷河期に変えた。
四人の体が、びくうぅっ、と面白いほど跳ねる。
ギ、ギ、ギ、と錆びた人形のように振り返れば、ドアの前に腕を組みながらめっちゃ青筋立てて仁王立ちしているお父様と公爵様のお姿が…………。
「セシル様が闇の精霊に取り憑かれたと聞いて慌ててすっ飛んできてみれば…………」
「部屋には入れず外で足止め、話を聞こうにも、詳しいことは誰も分からない」
「テラからアヴィリアの姿が部屋にないようだと知らせを貰った時は肝が冷えたよ」
「さて……」
「「説明してもらえるかな……?」」
ははははははははは。
「「「「…………」」」」
顔は笑っているのに、その背後に見えるのは地獄の鬼も裸足で逃げ出すんじゃないかと思うほどのどす黒いオーラを纏った閻魔大王でありました。
…………うん。まだ一件落着ではなかったかなっ!⁉
――――――――――
アヴィリア
これにてハッピーエンド! ……とはならなかった。
何の隠し事もなく、セシルとレグとウェルジオの4人で話せる未来が来たらいいな……、と思う。
セシル
起きたら自分の横で兄がアヴィを抱きしめてた。
殺意湧いた。
ウェルジオ
ほぼ無意識。フラグを立てることだけはうまいがだいたい折れる。
自分が許可するまで誰も近づけるなと言っていた。
レグ
一番特等席で全てを見てた。
く……っ、カメラを作っておけばよかった!
バードルディ家執事+αの皆様
旦那様! 伯爵様も! 申し訳ありません誰も近づけるなと言われてまして……、いえ、詳しいことは……。
ああ! お待ちください!
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