第18話 君想う
「なんてことがありました。ウェルジオ様は人気者ですね」
「はははそーかそーか。ちなみにパパは最年少で将軍の地位についたがね!」
十五歳の子と張り合わないでくださいお父様。
帰路へとつく馬車の中、私は先ほどの出来事をお父様と話していた。
最近の父はウェルジオの名を出すと時折こうして張り合うようなことを言い出すことがあるのだが、一体なんなんだろうか。実力をつけてきた後輩に焦りを感じてるとかかな?
「森の散策は楽しかったかい?」
「はい!」
あの後、森へ行くと言った私たちに騎士を夢見る卵さんたちが「護衛してやるよ!」と名乗り出てくれ、それに便乗するように周りにいた子たちまで俺も私もと一緒になり、当初の予定よりだいぶ賑やかな散策になった。
さすがは普段森の中を遊び場にしている子供たちなだけあって詳しいの何の。それらしいものを次から次へと見つけてくれて本気で助かった。
木々の合間をするすると通り抜け、飛び出した根や切り株をぴょーいと軽く飛び越えていく姿には、前世を含め超のつくインドア派のお世辞にも運動神経がいいとは言えない私は感心しきりだった。
森育ちたくましや……。
そんなこんなで手に入れた本日の戦利品はふたつ。
ひとつは“ホワイトセージ”。
その名前の通り全体的に白っぽい植物で、ハーブティーとして使用も出来るが、ホワイトセージの香りと煙には浄化の作用があり、集中力を高めると言う効果がある。
お香のように火をつけて燃やし、その煙の香りを楽しむ、という使い方も出来る。
せっかくだから新しい使用方法としてハーブティーではなくそちらにしてみるのもいいかもしれない。
ハーブティーが駄目と言う訳ではないが、ホワイトセージはちょっと味が独特というか、苦味があるので完全に人を選ぶ。商品としてはちょっと問題かもしれない……。
もうひとつは“ブルーマロウ”。
これもその名の通り綺麗な青い花で、その花をハーブティーとして使うことが出来る。
ブルーマロウの特徴はその『色』にこそあり、入れた直後は空のような青い色をしているが、時間が経つにつれ綺麗な紫色に変化していくのだ。
さらに酸に反応してピンク色へと変わることも出来る。
味もすっきりしていて非常に良いやすいので、飲んで美味しい見て楽しいという嬉しいコンボが味わえる。
そんな遊び心満載のハーブティーはきっとお客受けもいいだろう。夏の新商品としては、このふたつはまさに完璧だ。
実にいい発見だった。本気で行って良かった。教えてくれた子供たち、本当にありがとう!
脳内でひっそり何度目かも分からぬ子供たちへの称賛を送る。
「それでお父様にお願いなのですが……。こちらも今後商品として定期的に仕入れられるようにしたいのですが……」
「それなら問題はないよ。君が散策している間にトマス村長に話は通しておいたからね」
おお、さすがお父様仕事が早い。
しかし早々に量を確保できるというのはありがたい。せっかくなら商品の幅をもうちょっと増やしてみようかしら。
(マロウなら入浴剤にも使えるわね。美肌効果もあるから令嬢受けも良さそうだわ。きっと……)
セシルも、好きだと思う。
「……」
いつも明るい、太陽のような親友の顔を思い出して私はそっと目を伏せた。
最近、彼女の顔を見ていない。
ウェルジオから近況は聞いているし、顔は見ずともトランシーバーを使っての連絡は取れている。
たまにその声の中にわずかな疲労を感じては、本当に忙しそうにしているのだと分かった。
(ちょっとでも気晴らしになればいいんだけど……)
私の作るものの一番のファンだと言ってくれた。
いつも私の入れるお茶を美味しそうに飲んでくれる、新しい商品が出るたびにまるでおもちゃを見つけた子供のように目をキラキラさせて喜んでくれる親友を思って、私はそっと笑みを浮かべた。
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