第27話 結局は欲望に忠実なんです

 


 レグが我が家にちょこちょこ顔を出すようになっても、お父様は出入りを禁止したり、すぐさま彼を追い出すようなことはしなかった。


 けどその代わり、私とレグが会うことに関しては、やたら目を光らせるようになった。


「奴の話をまともに受け答える必要はない」とか、「適当に受け流しておきなさい」とか、「何かあったら遠慮なく潰してやれ」とか……。あれこれ注意事項を言い渡され、さらには「奴があまり近づかないように見張っててくれ」的なことをピヒヨにまで頼み込んでいた。


(何でこの子に頼んじゃったかな……)


 人間の言葉を理解できる賢い小鳥は、その依頼をしっかりと遂行し、レグが私に近づくたびに飛びかかり、嘴で突っつきまわすということを繰り返している。


 よそ様の、それもおそらくはそれなりの家柄のご子息であろう彼に対して、この仕打ちはいいのだろうかという私の心配をよそに、お父様は親指を立てるだけだし、ルーじぃにいたっては「本当にようやるわい」としか言わない。


 ……だからそれでいいのか?


「……美味しい?ピヒヨ」

「ぴっ!」


 ちなみに、今ピヒヨが美味しそうにガツガツとついばんでいるエサは、つい先日、日頃の感謝を込めてこれからもどうぞよしなに……とお父様がピヒヨに差し入れした最高級の鶏肉。

 どう見ても賄賂のそれにピヒヨは文字通り響喜乱舞で飛びついた。そして共食いだ。




「俺としても、このことは結果的にプラスになったんだよ。これを進言したおかげで脱走のお咎めも結果的になくなってさ。ここに来ることを両親も許してくれたんだよ」

「そうなの? 良かったじゃない」


 これで毎度、わざわざ見張りの目を欺いて脱走する必要がなくなったというわけだ。


「二人してくれぐれもよろしくって伯爵に頭下げてたよ」


(押し付けられただけじゃん……っ!)


 レグが抜け出さないように人員を割いて、脱走のたびに被害を受けることになるくらいなら、もういっそ許可したほうがマシ……とでも思われたんでしょうね。

 行き先がヴィコット邸だということもわかってるようだし。


(お父様がここ最近、とくに疲れた顔をしてる理由がわかった気がするわ…………)


 お父様、娘はあなたの胃が心配です……。

 まだ見ぬレグのご両親……、なんてことをしてくれたんですか。


「このレンジ、絶対量産できると思うんだよね! 家電は生活の必需品だし」

「そうね、厨房に立つ人間ならきっと欲しがるでしょうね」

「ゆくゆくはオーブンとか冷蔵庫とか作りたいなー。アヴィリアは? 何か要りようなものとかある?」

「それがあるだけでも十分だけど……、なんで台所にあるようなものばっかりなの……?」

「まずはリピーターを集めないといけないだろ? それには実用性のある家電が一番さ」

「言われてみれば……」

「作れるメニューの幅も広がるしね!」

「……って、それが狙いでしょうっ!!」


 私へのお詫びじゃなかったんかい。

 楽しそうによだれを流すレグは、結局自分の欲望に忠実なだけだった。


 こいつにいいように利用された第二王子様が不憫でならない。

 不敬罪で訴えられなきゃいいけど…………。


(そうなったとしても、しぶとく生き残りそうだわこの男……)






 こうした経緯を経て作られたアースガルド製のレンジは、後日無事にヴィコット領の生産工場にも設置された。


 それにより、ドライハーブの生産速度はぐぐんと上がり、『ハーバル・ガーデン』は商品の入荷不足と言う事態を避けることに成功したのである。



「ん〜〜っ、思った通り! このミントクッキーすごく美味しいわ!」

「せっかくだから、お店で出すハーブクッキーは季節にあわせて提供してるのよ」

「季節限定ってことね。目を付けるお客様が多いのはわかるわ」

「癖のあるハーブティーは苦手でも、こういうお菓子なら小さな子供でも食べられるでしょ?」


 おかげで私は、セシルと約束していたお出かけも無事果たすことができて、結果だけを見れば、すべてがうまく収まったのである。


 結果だけを見れば、ね……。



 一連のレグの行動により、見事に胃痛を悪化させられたお父様は、これらの件について、

「このまま利用して強請って強請って、強請りまくってやんなさい……! 責任はこっちには来ないからねっ!!」

 とかおっしゃってました……。


 お父様、目。目が死んでます……。


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