第26話 求めるは実用性なり。
から揚げプロポーズパパンマジギレ事件からしばらく。
当初の予感通り、レグはたびたびヴィコット邸に顔を出すようになった。お父様は既に諦めの境地だし、ルーじぃにいたっては「毎度やりおるわい」としか言わない。
それでいいんだろうか……。
「ねぇ、アヴィリアは何をプレゼントされたら嬉しい?」
「何よ、唐突に」
「むぐ、ほのはへは、ほふへんはふえたふうぇい、はほへひゃえりゃっははらね…………ごくん。そのお詫びだよー」
「……卵焼き食べながら言わないで」
(訳:この前は、突然訪ねた上に、倒れさせちゃったからね)
そしてなにゆえ彼が我が家に現れるのかといえば、もちろん奴の目的は食事である。
毎度毎度訪れる度に向こうのメニューを要求してくるので、メイドにもしっかり顔を覚えられてしまい、今やすっかり我が家の食客と化している。もてなすの私だけど。
「そういうわけにもいかないのが貴族社会ってやつさ。何がいい? やっぱりアクセサリーかな……?」
「そんなのあっても埋もれるだけよ。いらない」
「流行りのドレスとか」
「同上」
「……普通の令嬢だったら喜ぶだろうに……。何かないの? 今欲しいものとかさ……」
「そう言われても…………。あ、ひとつあるわね。今どうしても欲しいもの」
「なになに?」
「電子レンジ」
そのときのレグの顔は実に見物でした。
***
ブゥゥ――――――――……ン……
「動力源は主に太陽パワーによる充電式。ま、いわゆるソーラーパネルだね。だから梅雨の時期とか、曇りの日が続くようなときの使用は気をつけてね」
「…………」
「さすがに電気は作れないから無理だと思ったけど、そういえば似たようなのがあったなぁと思ってさ。いや、言ってみるもんだよね。この世界の工具屋もなかなかいい腕してるよ」
「………………」
「これは家庭用だからこのままヴィコット邸で使ってよ。君が欲しいのは生産工場で使う業務用だろう? それも今工具家が制作してくれてるみたいだから、じきに出来上がるよ。そしたらヴィコット領の方に運んでもらうね」
「……………………」
「どうしたのアヴィリア……? 狐につままれたような顔しちゃって」
「……〜〜っ、まさか本当にやるとは思わなかったのよっ!!」
目の前でブォンブォンと起動音を上げながら動く物体。
向こうの世界ではどの家庭にも必ず一個はあるだろう台所の必需品。
ほんの少しばかり前のこと。アースガルドの工具屋が太陽の熱をエネルギーに変えるという新しい動力源の作成に成功させたという噂が国中に広まった。
その話をお父様から初めて聞いたときは「うわぁ、なんかすっごい聞き覚えあるやつだわぁ……」と思わず遠い目をしたものだが、さらに詳しく話を聞けば、その発明はアースガルドの国民の暮らしのためになればと言う、第二王子の進言のもとに生まれたものだと言うのだから……。
「いや、待って待って!! 何でそこで第二王子が出てきちゃったの!?」
「俺が話を持ちかけたんだ。こういうのあったら便利ですよねーって。そして工具屋に話を持って行って、結果こうなった。使えるもんは使わないとねー」
「相手! 王族!!」
「別に悪いことしてないし、誰も損してないだろう? 工具屋は歴史的な大発明だって喜んでたし、アースガルドの技術向上に手を貸したことで王子の株も上がるし。ね? いいことづくめ」
「そうだけどっ! そうかもしんないけども!!」
なにその近所のお友達に「ちょっとお願いしてみたんだー」って感じのノリは。相手は王族! 隣んちに住んでる○○君とは訳が違うのよ!?
「そんな難しく考えることないって。俺は俺にできるカードを切っただけだよ。……これがうまく根付けば、この国の発展に必ず役立つ。いろんな技術が向上してくはずだ……。王子だってそう思ったから、この話を進めたんだよ」
確かに、向こうの世界での生活を経験している身としては、ここの近世代的な生活は色々と不便に感じることが多い……。
厨房で使っているのは竈だし、お風呂は沸かしたお湯をわざわざ浴槽にためていくスタイルだし、もちろんライトだってないから、夜はランプに灯した明かりを使うしかない。
レグの言うとおり、このソーラー式の動力源があれば、国民の生活に大いに役立つだろう。
「はぁぁ……。とりあえず、お礼は言うわ……、ありがとう」
「どういたしまして。…………でもどうせなら、お礼よりこの鳥何とかしてほしいかな」
レグの頭の上には見慣れた桃色の姿。
こうして話している間にも、鋭い嘴でビシビシとレグを突っつき続けている。
「ピヒヨ……、やめてあげて。お父様からの差し入れをあげるから……」
「……ピッ」
まるで「しょうがねぇな」とでもいうような感じで、しぶしぶレグの頭の上から移動する見た目は手のひら大だけど態度はマンモス並みに大きい小鳥様。
……気のせいかな。今の鳴き声、舌打ちしてるように聞こえたんだけど……。
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