第28話 そして生み出すものは

 


 〜〜美味しいフレッシュハーブティーの作り方〜〜



 1、まずは摘みたてのハーブを水洗いし、汚れをキレイに落としましょう。


 2、ポットの中にハーブを敷き詰め、熱々のお湯をたっぷりと注ぎ3〜5分蒸らしましょう。


 3、お気に入りのティーカップに注いで出来上がり。

 ※お好みで蜂蜜を入れてみるのもお勧めです。



「はあ〜……」


 癒やされる……。


 お風呂上がりのハーブティー。それは前世での私の一日の締めくくり。

 仕事で疲れた体をお風呂でほぐして、寝る前のハーブティーでほっこり癒しの時間。


 ウェルジオ少年から頂いたハーブは早速使わせてもらった。

 求めていたものとは違ったが、これはこれで使えないわけじゃない。もともとハーブは葉っぱを使うんだしね、そのまま使える。

 かといって状態が状態だったので、残りは全て洗ってただいま乾燥中だ。

 これで水分が抜けてカラカラになればドライハーブの出来上がり。ドライハーブは保存期間が長いし、色々と応用も利く。


 分別がちょっと大変だったけど。


「ふう……」


 そのまま身体を後ろに倒すと、柔らかいベッドがぽふんと音を立てる。


「次は何を作ろうかな……」


 今現在、手元にあるハーブはよっつ。


 まずは、レモンバームとペパーミント。


 近々もう一度持ってくると約束してくれたが、あのままだと今度は根っこからただ引き抜いて持ってきそうだったので、植物の移し替えの手順を事細かく説明しておいた。多分大丈夫だろう。


 次に薔薇ローズ。これは我が家の庭に沢山咲いている。

 でもこれはルーじぃが育てているものなので、使うには彼に分けてもらうしかないのが難点。


 そして最後。これは近々手元に加わる予定のものだけど……。


 横になったまま視線をずらせば、ナイトテーブルに置かれた小さな花瓶が目に入る。

 その中に生けられた、甘く爽やかな匂いを放つ青々とした『ローズマリー』。


 お父様があの森で見つけてきてくれた物だ。


 お父様が以前言っていた、それらしい物の正体とはこのローズマリーだった。

 出来れば自分の目で確かめてみたかったが、必要ならいくらでも取ってくるからとお父様に止められてしまった。

 なのでこのローズマリーもお父様が使いを頼んで採ってきてくれたものだ。


(やっぱりあの森に行きたいっていうと……お父様もお母様もいい顔しないのよね……)


 その森の湖で一人娘が溺れかけたのだ。親なら出来れば今後近づいて欲しくないと思うだろう。


 だがこれに関してはこちらも少々譲れない事情がある。

 あの森にローズマリーが自生していたと言うなら、ほかにもハーブが生えている可能性がある。物にもよるが、ハーブは基本春から夏にかけてが旬の物が多い。だからこそ今を逃す手はない。

 それらを切に訴えた所、なんとかしぶしぶながらも頷かせることに成功した。


「ただし、父様やお供の者と一緒にだ。絶対にそばから離れないことだ。いいね」


 そう固く約束することで了承してくれた。

 心配してくれているのを無理にお願いするのだから、その辺は分かっておりますとも。

 次のお休みの日に早速連れて行ってくれることになったので、今から楽しみだ。


(ミントとレモンバームが届いたら早速冷たいハーブティーを作って、ルーじぃと厨房のみんなには防虫剤がいいかも…………、あ、ミントは浴槽に浮かべてもいいわね、すっきりした入浴タイムが味わえるわ………………あと、……)


 そんなことをつらつら考えながら、知らず私は眠りに落ちていた。


 明日を楽しみに眠りにつくなんて、一体どれくらいぶりだろうか。


 一年ぶりに味わった大好きなハーブティーの効能も相まって、すっかりリラックスして夢の中に旅立った私はタオルをかけ直しに来てくれたテラにも気づかずにぐっすりと眠っていた。




 ***




 後日、ウェルジオはハーブの山を携えて再びヴィコット邸を訪れた。

 私の忠告を守り、きっちり苗として届けられたそれは温室の土間の一角にびっしりと植えられた。

 どうかこのままうまく根づきますように。

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