3ー6ー2 戦え、小洗健!
― 突然の、班決め代表者の選定。班員を全て一人で決めてもいい権限を与えられた彼ら代表者に、小洗はどうしがみつく…?
小洗 健の場合
ここまで完璧に事が運んでいた計画に、一片の狂いが生じた。この事実に、俺は額から崩れ落ち、そのまましばらく静止した。
班員をクラスメイトが決める、だと…?
そう、ここまで立てた計画は、あくまで班員を自由に決めることができる、という前提に基づいたものだ。優を使い、この班決めという時間内に早見さんたちグループと上手く接近すれば、ちょうど人数揃ってるしこのメンバーで良くね、的な展開になることは容易に想像できる。なぜなら、この班決めにおいて最も回避すべき事態は、組む人がいなくなり、通称残り物グループと呼ばれる班に配属されることだからだ。そのことを誰もが認識している中で、とりあえず知り合いが一人でもいる班に所属できる、という絶好のチャンスを、みすみす逃す選択を取ることができる者はまずいない。これは、いかに彼女らがリア充と呼ばれる属性であったとしても、変わらないはずだ。
しかし、その勝ちが約束されたはずだった戦いは、薫先生の一言により、一気にその戦局を変えた。選ばれたクラスメイトが班員を決める、これでは薫先生という神が任命した二人の指導者に、全ての決定権が委ねられてしまう。そんなことが罷り通っていいのか。
「え、俺っすか…。」
机に突っ伏している俺の耳に、後方から聞きなれた声が届いた。
聞き覚えのある、ちょっと低いけど、聞き心地の良い声。
この瞬間俺の心は、再びその闘争心を燃やし始めた。そしてそれは、俺の顔をむくりと起き上がらせた。
薫先生、good job。
俺は、この上なく涼しげで凛とした顔を薫先生に向けながら、その美しい顔に親指を立てた。薫先生は、そんなことお構いなし、という表情であるが、そこもまた可愛い。
そんなことはさておき、この覆すことができない状況を唯一打破できる可能性、それは自分、または知り合いがこの指導者に選出されることだった。つまり、知り合いの優が選ばれたことで、班決めはもう、完全にこちらのものだ。
優と、あれは早見さんグループのうちの一人、青波さんか。二人は席から立ちあがって教卓の前へ向かう。相方が早見さんグループなら、尚更好都合だ。
さて、どう調理したものか。
優は戸惑った様子で教卓の前に立つと、どうしようか、と頭を悩ませている様子だった。青波さんは、というと、なぜかずっと下の方を向いている。
少しの静寂の後、ようやく優が口を開く。
「あの、急に出てきてあれなんですが、とりあえず班決めしたいと思います。どうやって決めますか?」
待っていた問いかけ、思った通りだ。優のことだから、自分で班員を全て決めるような無粋な真似はしないと踏んでいた。さすが我が友だと誉めてやろう。
この状況、優の知り合い以外はなかなか声を上げづらい。よってその可能性が高いのは、早見さんのみ。そうなれば、ここでの最善の一手は…。
「ここで話しても難しいし、とりあえず自由に組んでみるのどうですか?」
先制攻撃。それが、この状況における最適解。
「十分くらい話して、とりあえずなんとなく固まったところから決めていくのでど、優!」
さりげなく友人アピールをかましながらの連続攻撃、誰の追随も許さない。
「お前の言う通りにするのはちょっと癪だけど、これじゃあ埒明かないし、一旦そうしてみるか。青波さんも、それでいい?」
青波さんも、相変わらず下を向きながらではあるが、こくこくと頷いた。
さて、この提案が覆る雰囲気は、もうない。
「それでは、十分間、自由に話し合ってもらう形に…。」
勝利を確信する俺の顔には、思わず笑みがこぼれる。
勝った。
心の中で、ガッツポーズをとった、その時だった。
「ちょっと待って!」
終焉を迎えかけた戦いに、再び一筋の火が灯る。突然声を上げたのは、クラスメイトの男子、樋口だった。
この期に及んでなんの悪あがきだ。
「それだと、まだクラスも始まって間もないから、なかなか組みづらい人がいると思う。だから、自由に、じゃなくて、くじ引きかなんかで決めない?」
なんだと…。
この、皆のこと考えてますよ、感のある優等生の皮を被った、脳内お花畑野郎め。この種の道徳心を擽る発言は、反論することが非常に難しく、更にそれを実行しようとすれば、単純に人間としての評価が低下する、という恐れがある、そのため、こう言われてはもう、覆しようがない。
考えたな樋口。素直に俺に天下を明け渡しておけば、お前も地方の大名くらいにはつけてあげたというのに。
少々悩んだ様子の優も、すぐにそれに応える。
「まあ確かにそれもそうだなー、自由にってのはあんま良くないかも。皆さん、どうしますか?」
クラスメイトは、口々にくじ引きに賛成する声を上げる。その中には純粋にクラスの皆のことを考えている者もいれば、この流れに便乗し、自らの班員も思い通りにしてやろう、と目論む者ももちろんいるだろう。
よかろう、お前たちがその気なら、お前たちの土俵で、正々堂々と戦ってやろうじゃないか。この俺に、いや俺たちに喧嘩を売ったこと、必ず後悔させてやる。
ここで五限の終わり、そして新たな戦いの始まりを告げるゴングが学校中に鳴り響く。もちろん、簡単に負けるつもりはない。さあ、ここからが本当の闘いだ。
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