3ー5 人間ってわかんねー

― 早見に五限の間に誤解を解いてもらえることになった坂上。彼女のことがどこか腑に落ちない坂上だったが、彼を教室で待っていたのも、これまた不可解な人物だった。



 坂上 優の場合 


 「なあなあ、さっきの話なんだけどさー?」


 早見との、いろいろと腑に落ちない話し合いを済ませた俺を待ち構えていたのは、ここぞとばかりに鼻の下を伸ばした小洗だった。


 「さっきってどれだよ、ツッコミどころありすぎてわかんねーよ。」


 俺は、今朝からのこいつの行動を思い浮かべ、そうぼやいた。


 「いやー、あの女子紹介してって話。」


 当然じゃん、とでも言いたげな顔に、若干腹を立てながらも、俺は弁解する。


 「そのことだけど、俺が言ってもおめーら聞かないから、早見に話してもらうことにしたわ。五限の遠足の班決めの時、話に行くってさ。」


 俺の言葉を聞いて、一瞬考え込むようなポーズを取った小洗だったが、その後で、なぜだか小洗の鼻の下は、更に伸びたような気がした。


 「あ、そっかそっかー。それはそれは。」


 やはり、こいつも何を考えてるのか全然わからない。


 「じゃあさあ優、遠足の班、俺と一緒に組まね?」


 じゃあって、どういう文脈だよ。


 「それは別にいいけど、そしたら蘇我と西園寺君の四人で組もうぜ。確かあれって、一班男女四人ずつだろ?」


 おうおう、と、なんとも言えないにやけ面で俺の肩を叩いた小洗が自席に戻ると、ちょうど一限が始まるチャイムが鳴った。


「あーもうわかんねえ!」


 これまで、得意なはずの、人の思考を読む、という行為が全くできなかった俺は、机に突っ伏して、一限の授業を無気力で受けることとなる。


 いや、女子どころか男子もわかんねーや、ってことは俺、人間がわかってねーってことか?


 朝から、次々に意味の分からないことに苛まれ続けた俺の脳は、どうやら自分でもよくわからない結論に至ったようだった。

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