3ー4 我、天下人なり
― 近づく課外学習に向け行われた班決め。誰もがその重要性を噛みしめる中、小洗にはなにか秘策があるようで…?
小洗 健の場合
年に一、二回、あるかないかの全校集会が終わりを迎え、ついにこの時がきた。五限のうち残された、この約二十分という時間。そこで行われることこそ、天下分け目の戦い、その名も班決めだ。
だが、今回の戦いには、秘策を用意してある。
俺が後ろを振り返ると、そこには、今回の秘策が鎮座していた。そう、女子と仲がいいこのうらやま男子こそ、今回の作戦の鍵となる、最重要人物だ。
― 班決め!
課外授業における、後の満足度を決定づける大きな要因、それが班員だ。確かに課外学習において、その行程は非常に大切だ。しかし、それと同じくらい、いやそれを上回るほどに重要な選択、それこそがこの、班決めだ。これを有利な方向に持っていた者は、理想的な班員を揃えることができ、その行程の起草にも、そして当日の行動にも、大いに身が入る。しかし、これは逆を言えば、そもそも班員に思い入れが無ければ、計画にも行動にも身は入らず、楽しかったはずの時間は失われ、あとから他の班の楽しい思い出話を妬むだけの、最悪の課外学習が出来上がってしまう可能性すらあるということだ。
更に今回は、スタートダッシュを決めるにうってつけの、高校生活最初の課外学習である。ここで躓きし者、即ち敗者、即ち非モテ、即ち陰キャの烙印を押されることも辞されない。
少年少女らは、それぞれの妥協点と、これだけは譲れないという条件を両手に構え、最強の班を構築すべく奔走する…!
「それじゃあ残った時間で、昨日言ったように、今度の課外学習の班を決めようと思いまーす。」
我らが一年三組担任、兼美人教師の薫先生が、合戦の始まりを告げると、俺たちはそれぞれの雄叫びを上げる。ソワソワしている者、興奮を抑えきれず立ち上がる者、すぐにひそひそと噂話を始める者、その様子は三者三様であるが、それを薫先生が押さえつける。
「おーい、時間もないんだから、静かにしてないとこっちで勝手に決めるぞー。」
俺たちは一瞬で静まり返る。この選択が運ゲーになるのは、あまりにも非情だ。
…馬鹿な猿どもめ、今更パイプ作りなどしても遅いわ!
静寂の教室を眺め、俺はニヤッと笑う。そう、今回の俺には秘策がある。そして更には、とても大きなぼた餅までもが棚から降ってきた。
クラスの誰もが真っ先に狙うであろうイケイケ勢力は、既に俺たちの手に落ちている。この戦い、すでに敗北の二文字は、ない。
我、天下人なり…
― 静かに微笑みながら、机に向かってそう呟く小洗だった。
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