3ー3 意外と照れてる二人

― 放課後デート裁判で有罪判決を受けた坂上は、もはや誤解を晴らすにはこの手段しかない、と、ある人物を頼ろうとしていた。



 坂上 優の場合 


 理科室の鍵を返し終わるころには、俺はある結論に至っていた。それは、この誤解を解くには、不本意ながら早見に頼むしかなさそうである、ということだ。クラスの男子たちに、もはや俺の言葉は届かない。こうなったら、もう一人の当事者である早見に、きっぱりと疑惑を晴らしてもらう他にない。


 俺は廊下で早見を見つけると、開口一番、その旨を早見に伝えた。

 

・・・。


 一瞬の沈黙の後、早見はニマニマした表情を浮かべながら、ふーんそっかそっか、などとつぶやきながら、右手を口元に添えた。だから嫌だったんだ。


「坂上、意外と照れてる?」


 にやけ面のまま、早見は俺の顔を下から覗き込むようにして煽ってくる。


「なっ、わけないだろ馬鹿!おめーの昨日の誘い方のせいで、男子たちから女子たち紹介しろって詰められてんだよ。」


 そうは言っても、実際早見に直接この事を頼むことに、ちょっと照れているのは間違いない。それが、思春期男子というものだ。


「そうそう、今朝から思ってるんだけど、私そんな変な誘い方したっけ?」


 早見は体制を戻して、首をかしげる。


「いや、俺もそんな変だとは思わなかったけど、そのせいで、お前が俺を放課後デートに誘った、ってことになってんだろ?」


「放課後デート!?」


 素っ頓狂な声が、廊下に響く。それに呼応するように、隣のクラスの人や、廊下に出ていた野次馬たちが、ここぞとばかりに噂話を始めたような気がする。あーやばい、また噂が広がる…。


「おい、静かにしろって、てかなんだよおめー、知らなかったのか?」


 早見は、顔を伏せて返事をしない。急にどうしたのだろうか。


「まあとにかく頼むわ、男子たちに事情説明して…」


「そんな風になってるとは思わなかった。」


 返答としては0点な回答が、食い気味に返ってきた。


「おい早見―、話聞いてたかー?」


 再びの沈黙。


「私、坂上のこと、その、放課後デートに誘ったことになってるの…?」


 顔を少し上げて自分の手に埋もれる早見は、俺にそう問いかけてくる。気持ち声が震えている気がする。


「いや、だからそうだって。それでそれを…」


「誤解だよ!私、美憂のことが心配で、とりあえず私たちだけより坂上がいた方が良いと思って、助っ人に呼んで、それでそれで…。」


 俺の会話の途中で、早見が急に顔をあげ、まくしたてるように言葉を重ねる。こいつは、一体なにに焦っているのだろうか。


「いや、俺は知ってるに決まってんだろ。具合でも悪いのか?」


「うっさい!でもわかった、男子たちにはちゃんと説明しとく、妄想が酷いって。」


 早見の目が、ちょっと昔に戻った気がして、今度は、俺が焦る。


「穏便、にな…?」


 そうすると早見は、さっきまでの動揺はどこへやら、ケロッといつもの表情に戻って、もっちろんと言葉を返してきた。


「そうだ、今日は五限に遠足の班決めがあるから、その時にでも話しておくね。」


 そう言われれば、確かに今度の課外学習の班決めは、今日の予定だった気がする。


 「お、おう、頼むわ。」


 俺の言葉を聞くと、早見はスキップ交じりに教室へ帰っていった。


 あー、女子ってわかんねー。


― ありそうでなさそうな、そんな台詞を呟く坂上だった。

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