2-2 デキる女の戦国時代
― 男子たちがしょうもないいざこざを繰り広げるさなか、同じ教室内では女子たちもまた、別の戦いを繰り広げているのであった…!
入学してから早いことにもう一か月。段々と皆もクラスに慣れ始めているようだ。休み時間には、固まってよくお喋りをしている人、グラウンドに遊びに行く人、教室で騒いでる人、それぞれ一緒に楽しく過ごしている人たちを見ることができるようになった。かく言う私も、こうやって昼休みに一緒にご飯を食べる友達ができた。
「高校生っていっても、まだ大して生活変わったりはないよねー。」
そう言ってパンをかじる彼女は、同じクラスの
「えー渚だったらすぐ彼氏とかできそうじゃん。」
まだ名前を憶えられていない子もいる。この子は席離れてる子だったかな。
「彼氏かー、なんか同級生だとあんまそんな気にならないんだよねー。」
斜め上を向きながら、上の空、って感じで答える渚ちゃん。彼女のこういうところが私は好きだ。なんというか、こんな質問慣れてますよーみたいな、そんな余裕のある表情が。
「ま、同い年じゃ渚には釣り合わないか。」
「そんなことはないけど、うーん、単純に年上好きなだけかもね?」
そしてそうやって冗談を言って笑う顔も、渚ちゃんはとても無邪気で可愛い。外見も、そして内面も可愛いのに、大人の余裕とでも言うべきな、あのかっこよさも備えている。こんな子がモテるんだろうなと、そんな風に思う私をよそに、彼女らの話は続く。
”あの坂上君っていうのは彼氏じゃないの?
あーやっぱそう見えるー?
見える見えるーとっても仲良さそうだし。
仲いいのは正解。けど残念ながら、あいつはただの親友かなー。
ただの親友ってなんかいいね。
うんうん、それにあんなイケメンが親友だなんて、渚は幸せ者だねー。今度紹介し てよ。
おっけー。”
渚ちゃんはもちろんのこと、なんというか、皆はデキる女感がとってもすごい。今の坂上君っていうイケメンさんにも、もう出会う口実を作っちゃうなんて…!
― 唾つけ!
これは迫る夏の戦に向けた準備である!
ピカピカの高校生の夏に、異性が不可欠なのは言うまでもない。そこでこの時期から、ぱっと見いいなー、と思う異性とパイプを持っておくことが非常に重要なのだ。この行動は男女の遊びに自分が誘われる可能性ができるという利点や、この人は私たちと遊ぶんですよーという牽制を周りにすることができるという利点、そして、ひょっとすれば彼氏ができてしまう可能性まで秘めているという、非常に効果的な一手だ。特に高校一年生の夏は、まだ初対面だし…、まだ知り合うことができてなくて…、などといった理由から一緒に遊ぶ異性は作りづらい。しかしそんな羞恥心から高校一年生の夏から異性と遊ぶことができなければ、それはその後の高校生活を、友達と遊んでいただけだったなー、というような、さながら売れない芸人の一発ギャグの如き寒い時間にしかねない大きな躓きとなる。その証拠に、作中のデキる女子筆頭格の早見ならともかく、今だ名前すら登場していないクラスメイトA、Bまでもがこれを悟られることなく自然に行っているのだ。そう、青波のような恋愛に疎い者以外は皆、この戦いで一旗揚げようと、着実に準備を進めているのである。だが、この行動は一見新学期から、男好き、という印象を持たれかねない非常にリスキーな行動である。しかしそれでも彼女らは一歩も退こうとはしない。そう、彼女たちは、なにがなんでもこの戦いに負けるわけにはいかないのだ!
攻めと守りの瀬戸際を図る彼女らのその姿勢は、準備段階から既に、さながら背水の陣を敷く戦国武将同士のにらみ合いの様相を呈していた。青波もこのことをなんとなく察していたのだろう、だから彼女らに感心したのだ。
ー 女の戦いは、未だ始まったばかりだ…。
”じゃあ今度あいつここに呼んじゃおっか。
いいねーそれ!
きっとあいつ、めちゃくちゃ照れるよー。
可愛いとこあるじゃーん、楽しみ。”
・・・私には、この話に乗れるほどの技量ないなー。
― 少し彼女らに圧倒されつつも感心しながら、お母さんの手作りお弁当の中でも一番好きなタコさんウインナーを口にする青波だった。
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