第7話 死ねばいいのに
炎が躍り狂い、水が
まるで銃撃戦の現場に来てしまったかのような気分になりながらも、私は幸那様に視線を向けてしまいます。
即ち、どうしましょうか――といった視線です。
現状は理解しています。
水を操るファウ
そんな二人を横から見る形で到着したのが私たち――
しかし、残念ながら私たち二人はフェアリーウィッチに成り立ての
あんな銃撃戦……もとい、飛び道具の打ち合いの
「
「なるほど。それでしたら、炎が来ようが水弾が来ようが何でも吸い込んで処理できるかもしれません」
流石は幸那様です。それなら、接近する事も可能でしょう。
接近出来るなら、相手に攻撃する事も可能でしょうか?
でも、どうやって?
うーん、と私が悩んでおりますと、幸那様が怖々と私に尋ねられます。
「え? 水弾も飛んでくるの?」
「ゾンビか、ゾンビじゃないかの判断はとりあえず
「それゲームの話だから! 明らかにファウ衣装の私たちは狙わないでしょ!」
幸那様は納得がいかない様子でしたが、希望的観測で動くのは危険でしょう。
私は宙に指を走らせ、腕を突っ込んで抉じ開け、次元の裂け目を作り出そうとし――、
「おや?」
「あれ? 途切れちゃった?」
幸那様が途中で途切れた線を私の肩越しで見つめて、そう仰います。
というか、幸那様の吐息が首筋に当たって擽ったいというか何と言うか……。
ちょ、ちょっと近過ぎませんかね? 幸那様?
そして、その事を意識した途端、途切れていた線が復活して、より大きく太くなった線が地面まで一直線に走ります。
何ですか、これ? 急に出力が高くなったようですけど?
「何かGペンのインクが暴発した時みたいだね」
「えぇ、
「…………」
幸那様の顔がみるみる真っ赤に染まって、そして何かを言い掛け、ぐるぐると目を回された後で御自身の顔を両手で覆ってしまわれました。
会わせる顔が無いという奴でしょうか。
「何で知ってるのよぉ……」
「幸那様の部屋のお掃除は私のお仕事ですので」
「うぅ、自分の部屋の掃除くらい自分でするもん……! だから、もうお掃除とかしなくていいからぁ……!」
「畏まりました。三日後が楽しみです」
ちなみにこのやり取りは前にも交わされた事があります。
その時は、三日と経たずに幸那様の部屋は足の踏み場も無い状態になっておりました。今度はどれだけ保つのか楽しみにしていましょう。
「片付け頑張るもん……!」
一見、
おや? また線が太くなってしまいました。本当に何なんでしょう、コレ?
「ちっちっちっ! 疑問に思ってるっちね!」
その時、聞きたくもない声が聞こえてきてしまいました。
「幻聴でしょうか?」
「幻聴じゃないっち! エリエル様だっち!」
幸那様の腰元に吊り下げてあるホルスターの中から、実に厭らしい顔をした球体が顔を出します。キーホルダーサイズになれば少しぐらいは愛嬌が出てくるかと思いましたが、どこから見ても気色悪いですね。
死ねばいいのに。
「死ねばいいのに」
「こらー! 言葉に出しちゃ駄目な部分が出てるっちよー!」
「そんな事よりも、エリエルは
「そんなこと!?」
ひっそりと幸那様の毒舌が冴え渡っております。
もっと仰って下さっても構わないのですよ?
「ふーん? まぁ? ボケナスたちには分からないかもしれないっちが~? 特別にどうしてもって言うなら教えてやらなくもないっちが~?」
「物凄く上から目線ですけど、このまま突っ込んで、私たちが負けたら困るのは貴方の方なのでは?」
私がそう突っ込むと、睾丸野郎は白目を剥いて滝のように冷や汗をかき始めます。
第一目標が私たちを使って、神様の暴挙を止めることだと思い出したようですね。
私たちに意地悪をしてもなんの意味も無いどころか、どうやらマイナスに働くと理解したようです。気持ち悪い笑みを浮かべながらヘコヘコとし始めます。
「えーと、御二人は『フェアリーウィッチズ』というアニメは御存知っちかね?」
「
「妥協したのでしょう。大人の世界では良くあることです。あまり触れないでやってください」
「分かった」
時に
睾丸野郎も黙って泣いていますが、全く可愛く無いのでメソメソするのはやめてもらえますかね?(心の刃で滅多刺し)
「うぅ、力の源は『フェアリーウィッチズ』の原作準拠だっち……。疲れたから、少し寝て心の平穏を保つっち。おやすみっち……」
戦闘中に寝るマスコットキャラというのも斬新ですね。
普通は戦闘中にアドバイスを送るものなのでは?
もしくは実況かガヤに撤するか。
まぁ、いなくても問題は――……いえ、いない方がスムーズに進むのでそれで良いでしょう。
「それで幸那様、フェアリーウィッチズの力の源というのは一体?」
私は幸那様程のファウ信者ではないので、あっさりと幸那様に答えを求めます。そして、ことファウ関連の質問については幸那様は饒舌なのです。
「それはね、
想い――ですか。
何だか随分とふわっとした表現の気がしますが、具体的にはどういったものなのでしょうか。その部分を幸那様に尋ねると――、
「えっとね、愛とか」
愛……?
「友情とか」
友情……?
「正義だとか」
正義……?
「何かそんな感じの!」
流石、日曜の朝早くにやっている小学校高学年の女子児童対象番組ですね!
私に当てはまる要素がひとつもありません!
私が持つ愛や友情は全て幸那様のためのものであり、全ての正義は幸那様です。
真っ当な感性でないとファウとしての力を発揮出来ないというのであれば、私はファウシリーズ最底辺の力の持ち主となることでしょう!
嗚呼、これはファウとしての能力は大当たりなのにも関わらず、私の心根により自分の首を絞めているということなのでしょうか。
本当に情けないことです。
「
「割りと一般的な想いの要素について挙げたのに、それで役に立たないってどういうことなの……?」
そう仰られましても。
しかし、おかげさまで私の線が途中で途切れてしまう理由が判明致しました。
私には愛も友情も正義感も、ましてや平等も平和も慈しみも何かその他諸々も色々と足りていない部分があって、線の長さを一定以上に描くことが出来ないのでしょう。
……おや?
ですが、先程線の出力が急に上がったような……?
気のせいでしょうか?
「って、あああ!? まずいよ、
力の均衡が崩れたのか、強烈な炎による爆発によって
やはり、出力的には頂人の方が上ということなのでしょう。
いえ、そもそも、火に優位なはずの水のファウが
益々、逃げの一手しかないような気がしてきました。
「あれは、与えられた天使パゥワーがそもそも低いっちねー」
幸那様のホルスターの中から寝言が聞こえてきました。
寝言なら言葉の刃が返されないとでも思っているのでしょうか?
「供給する天使パゥワーをケチったのか、そもそも位が低い天使が力を与えたのか……優位属性にも関わらず、ここまで追い詰められるのは、多分そういうことだっち。まぁ、神様が頂人のパゥワーバランスを間違えたって可能性もありそうだっちが……むにゃむにゃ……」
「エリエル、起きてるの?」
「
親切心ではないです。
復活されると非常にうるさいからです。
嗚呼、それにしても「分かった」と言われて笑顔を向けられる幸那様の何と美しいことか……。
私の人生はもしかすると、このためだけにあるのかもしれませんね。
しかし、それにしても……。
「――コスプレ女ごときが邪魔すんじゃねぇよ! 俺がこの街の夜の嬢にいくらつぎ込んだと思ってんだ! ン百万ってレベルじゃねぇぞ! ン千万だぞ!? ン千万! 消費者金融に金借りまくって、今じゃ首も回らねぇレベルの借金までこさえて! それでも嬢は振り向いてくれやしねぇ! 何なんだよ⁉ やっぱ世の中顔なのかぁ⁉ 顔が良くなきゃ駄目なのかぁ⁉ だったらこんなクソみたいな世の中、燃やし尽くしてやらなきゃ駄目だろ! 手始めにまずは嬢の働いていたこの街を焼き払わなきゃって思ってたのによぉ! 何なんだよ、テメエは⁉ 邪魔しようとするんじゃねぇよ!」
なんというか、随分と利己的な頂人ですね。
頂人は人類を恨んでいると聞きましたが、皆こんな感じなのでしょうか。
「くっ……、くそっ……!」
一方の
街を燃やし尽くされるのが嫌でファウになったというのであれば、正義感は強そうですが、実力が伴っていないのは単純に可哀想ではあります。
「いいぜ、お前らがそのつもりなら、俺は街ごとお前らを燃やし尽くしてやる!」
お前ら?
あ、これは完全に私たちのことも認識されているようですね。
まぁ、
しかし、そうなると不意打ちは仕掛け辛くなりましたね。
どうしましょう。
「黙らっしゃい!」
私が考え込んでいると、凛と透き通るような声が辺りを一喝します。
――えぇ、幸那様です。
いや、そんなに前に出たら危ないですよ?
「さっきから何事かと聞いてれば……。女の人に勝手に熱を上げ、借金を作って首が回らなくなったからって街ごと燃やす? この街には
決まった――とばかりに、ポーズを決めて、ずびしっと頂人に向けて指先を突きつける幸那様。
えーっと、あのお店のパンケーキは確かに美味しかったですけど……というか、滅茶苦茶どやぁ顔してますけど、それってもしかしてファウの決めポーズと決め台詞が出来て嬉しい感じですか?
あ、はい。嬉しいのですね。
分かりました。分かりましたので、どやぁな顔のまま、こちらを振り向かないで下さい。
反応に困ります。
「絶殺? 絶殺だとぉ?」
「ふぇ?」
「やれるものならやってみやがれ! 灰になっても同じ事が言えるのか、試してやらぁ! チャーカッカッカッ!」
そんな叫び声が聞こえたかと思った次の瞬間には、幸那様の目の前に巨大な……それこそ直径十五メートルはありそうな……巨大な火の玉が押し迫ってくるのでした。
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