Intermission 3

 初めての時は何かとうまくいかなくて、それでいて記憶にだけははっきりと残っているもんだ。

 おれたちもそうだった。

 トーナメントの話だぜ。

 ある事件をきっかけにおれたちが手に入れた戦車は――デザート・ペンギンは、その昔、大戦期に連邦軍のエースパイロットが乗っていた機体のフレームを流用したヴィンテージものだった。さすがにエンジンも武装も入れ替えられていたが、素性は悪くなかった。

 けっこう、自信はあったのさ。

 あいつも、いくつかの野試で女神との実戦を重ねて、それなりだったからな。

 だが――こてんぱんだったさ。

 相手は若い女神を擁する戦車だった。あいつと同年代の――それも顔見知りだったらしい。

 戦車の性能じゃ負けていなかったと思う。向こうもデビューしたてで、パイロットはパッとしないやつだった。だが、金髪で自信まんまんのその女神は、おれたちを挑発しまくった挙げ句、ダブル――いやトリプルスコアで葬ってみせた。

 よく命があったものだ。それも、相手の女神の余裕だったのだろう。必死でためたカネで仕込んだ装備をすべてオシャカにされて、そのくせコクピットまわりは無傷。おれたちにはかすり傷ひとつなかった。

 初めてだったな――あいつの悔し泣きを見たのは。

 まったく、柄にもなく、いろいろ慰めたもんだ。

 そして、約束した。ガンロードになる、と。手始めにあの金髪女神をぶっ倒して――とな。

 まったく、ガキだったのさ。おれもあいつも。

 夢だけはあった。いくらでも。

 戦車の修理代はおろか、その日のメシ代さえも事欠いてたってのに。


 トーナメントで初勝利をあげた日のことは実はあまり覚えていない。舞い上がって、はしゃぎまわった。たぶん、あいつも同じだ。

 倒した相手がそれなりに大物だったせいか、生まれて初めて取材なるものを受け、写真の位置取りでくだらないケンカもした。

 勝ち方がわかってくると、うまい負け方もわきまえるようになる。かなわないと悟れば、傷が深くなる前に降参する。彼我の力の差がわかるようになるからだ。

 そうすると、勝率が上がるとともに、損傷率は下がる。

 資金に余裕がうまれる。

 おれたちには目的があった。そのためにすべてを投資した。つまりは、戦車に。

 そして、念願の――グランクルーザーを手に入れた。もうこれで、デザートペンギンを運ぶトレーラーを探さなくてもよくなるし、寝泊まりするのに安宿を探し回ることも――結局はほとんど野宿するハメになる――こともなくなる。

 家と足を手に入れたことになるからだ。

 あいつはほんとうに嬉しそうだった。あんなに喜んでいる顔は見たことがなかった。

「フォース、もしかしたらだけど、あたしの夢って、かなったかもしんない」

 そんなことさえ言った。

「ばかか。これで貯金もなんも全部パーだぞ。また、一からだ」

「うん。そうだけど。そうなんだけど、うれしい。あたし、今まで、自分のうちってなかったから。これから、ここへは『ただいま』っていって帰ってこれるんだね」

 あいつはそう言って笑った。泣いているような笑顔だった。

 そういえば、ただいま――なんて、おれも言ったことなかったな。

 帰るべき場所――護るべきもの――

 おれたちは強くなっていった。間違いなく。

 大切なものを手に入れたから。

 だが、同時に――


 それにしたって、ペンギン・ママ号はねえだろう……?

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