第14話
団長を警戒する日々が始まった。
学校帰りだったり、バイト帰りだったり。俺がひとりでいるとき、団長はフラリとどこからともなく姿を見せるようになった。
「やあ」
顔の半分隠してて、目だけしか見えなくても、目を細めて笑った顔は俺の何倍もカッコいい。カッコいいから何だって話だが。話しかけられても笑いかけられてもスルーだ。無視。無視に限る。
だが、俺が早足でてくてく歩いても、団長は颯爽とついてくる。
「ショウに似合うネックレスを見つけたんだ。ぜひ、受け取ってほしい」
「いりません」
丁寧にきれいに高級そうな紙で包まれた箱を見せられても、無視。あ、返事したから無視ではないか。
「残念だ。では、欲しい物を教えてくれるかな?ショウが欲しいと思うものなら、何でも贈るよ」
「いりません」
同じセリフしか喋らない、無愛想な俺。なのに、団長は微笑みを湛えている。顔の半分しか見えないけど、微笑んでるのが分かる。大丈夫かコイツ。
あと数メートル歩くと、大通り。そこに出る前、団長は足を止めた。
「また会いに来る。ショウに似合うもの、また探しておくよ」
「いりません」
団長を一瞥もせず、俺は家に向かってずんずん歩く。
団長、しつこい。あれは一種のストーカー?何回帰り道を変えても出現する。どうしてそんなに俺にこだわる?こっちは一応既婚者なんだが。偽装夫婦だけども。
家に帰って、晩飯の支度。まだまだ野菜スープの日は続く。食費を削って借金返済のお金を貯めているのだ。
「ただいまー。今日は何の野菜スープ?」
リュウはもう団長のこと忘れたのか、いつも通りの呑気さを取り戻していた。そう、俺は団長のことをリュウに一切言ってない。言えない。
言えない。どうして言えないのか…。
リュウが出世どうこうで落ち込むから。
出世に目がくらんで、俺を売り飛ばすかもしれないから…?俺は、売り飛ばされたくない。どうして売り飛ばされたくないかというと…?
「ショウ!お鍋!お鍋が!」
リュウの声にハッとする。料理作ってる途中なのに、ぼーっとしてた。慌てて火を止めるが焦ってしまい、あっつい鍋を直に触ってしまった。
「ショウ、もー!何してんの!」
俺の手をつかんで、水をざばーっとぶっかけるリュウ。手だけじゃなくて、服にもざばーっとかかった。
「悪い」
俺が素直に謝ると、リュウの手に力が入った。
「ちょ。ちょっと…。ショウがそんなしおらしいと、ボク怖いよ」
リュウはいつも通りの失礼さ。だけど、気のせいだろうか。俺の手を掴んでるその手から、優しさが伝わってくるのは。
「…なんだって?」
いつも通りの俺に戻り、空いてるほうの手でリュウにデコピン。リュウは痛がったけど、俺の手を水につけながら笑ってた。
団長のつきまとい行為は断続的にあったけど、俺がひとりでいるときだけだし、大通りや人の多いところでは接触してこなかった。無視するか、「いりません」と言うか、それで大体は事足りた。早く付きまとい行為に飽きてほしいものだ。
そんな、ある日の休日。
リュウは仕事が繁忙期に入り、朝から出勤。俺はリュウを送り出したあと二度寝してた。そろそろ起きて掃除でもしようかな…と、あくびしながらのそのそ起き上がると…。
昨晩、「この紙袋、明日絶対持って行くから覚えておいてね!」と、リュウが宣言してた紙袋が目に入った。
どうやらすっかり忘れて出勤したらしい。バカだ、やっぱり。
しゃあねえなあ…。
さっきまでのそのそしてたけど、キビキビと身支度を整えた。リュウの出世に響くと困るので、紙袋を持って俺はリュウの仕事場へ向かう。
いい天気。洗濯すればよかった。リュウが忘れ物なんかするから…。そんな感じで心の中で文句言いつつ、記憶を辿って歩いていく。
家を出て仕立て屋まで、そんで坂道を歩いて。
立派で重厚な建物が見えてきた。ここ、ここだ。王立魔道研究所。
休日だけど職員が出勤してるからか、守衛所におじさんがいた。
「すみません。忘れ物を届けに来たんですけど」
守衛のおじさんに声をかけると、「じゃ、ここに名前を書いて」とノートを差し出され、あっさりと中に入ることができた。軽いな。もっとちゃんと警備しなくて大丈夫?
研究所の構内には、何棟かの建物。確か、南の建物って言ってたよな。あっちかな。適当に目星を付けて、敷地内を歩いてた。
そしたら。そこで。
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