第11話

あっという間に一か月後。パーティー当日を迎えた。


リュウと共にやってきたお城。城門の前の時点で、俺はかなり引いてた。だって、城だ。お城だ。ここに来るまでのん気に構えてたけど、実際お城を目の前にすると…。威圧される。


「リュウは今までお城に入ったことあるのか?」


「子供のときにパーティーで来たことあるよ。覚えてないけど」


城門で招待状を見せ、そこから庭を通り、門を通るとまた庭があり、さらに門を通るとまた庭があり。お城の建物の中に入るまで、三か所の門と庭があった。リュウの実家の庭も手入れされてて綺麗だったけど、お城の庭は段違い。レベルが違う。

場違い感が半端なくて、緊張しっぱなし。

なのにリュウは「あ、ほら、庭の花壇。あれ、薬草だよ。すごく高いやつ」と、はしゃいでた。はしゃぐポイントが分からん。


パーティーが開かれる大広間。

俺たちが着いた頃には多くの招待客が着いていた。緊張してるっぽい人もたくさん見受けられて、少し安心。俺だけが庶民じゃないんだ。うんうん。


王様の挨拶でパーティーが始まる。王様は遠くてどんな人か見えなかった。

楽団の演奏が流れる中、今日は美味い物たくさん食べるぞと意気込む俺。だけど、リュウに止められた。


「まずは上司に挨拶しなきゃ!」


ぐいぐいと引っ張られながら、出世のために人付き合いをするんだな…と、リュウを少し見直した。人付き合いだけじゃなくて、仕事でキチンと成果を上げることができてたらいいんだけど。

リュウの上司に挨拶したあと、他にもいろいろ。先輩という人、家同士の付き合いがある人。何人も挨拶回りして、そろそろ料理食べたいってリュウに言おうと思ったとき。後ろから声をかけられた。


「リュウ、ショウくん」


振り返ると、そこにはリュウのお兄さん。お兄さんの姿を認めた瞬間「あ、ボク、ちょっと用事が…!」とリュウは逃走した。お前、何でそんなにお兄さんが怖いんだ?

逃走したリュウは放置し、俺はお兄さんに頭を下げる。


「お久しぶりです。あの、今頃のお礼ですみません。結婚祝い、ありがとうございました。おかげで、学校にも通えたし、今日の服を仕立てることもできました」


お兄さんはほんの一瞬、驚いた顔をした。俺がマトモにお礼を言ったからだろうか。

リュウから俺のことを野蛮人だと聞いていたのだろうか、マトモなことを言った俺に驚いたのだろうか。…リュウめ。

あとでリュウをしばくことを心に決め、もう一度お兄さんに頭を下げる。


「いや、構わないよ。それより、ショウくんのおかげで、リュウは生まれ変わったようだ。ありがとう」


今度はお兄さんの言葉に俺が驚く番。

俺は何もしちゃいませんよ。

そう言おうかと思ったけど、偽装夫婦がバレるのはマズイので曖昧に笑っておいた。すると、お兄さんは俺の後ろに目をやり、軽く手を挙げた。


「老師、いいところに。こちらが、リュウの伴侶のショウくんです」


リュウの師匠。話に聞くばかりだった師匠。優しそうなおじいちゃんだった。


「君がショウくんか。話は聞いているよ。リュウをマトモにしてくれたとか」


マトモ?リュウは最初からあんな性格じゃないのか?良い奴のようなバカのような。失礼な言動を取ったかと思えば、文句も言わずに俺の料理を食ってる。最初からそんな奴だ。


「リュウの祖父と私は古い友達でね、それが縁で弟子にしたんだが…」


そこでお兄さんが溜め息を吐いて、この先の展開が読めてしまった。リュウのいけてないエピソードだろうな。


「リュウは確かに優秀だが、机に向かって良い成績を残すことばかりに目が向いていた。それだけでは真に優秀な魔導士になれはしないと叱ったら1年間も姿をくらませて…もう見放そうかと思ったんだけどね」


おいおいリュウ…。お前、見放される寸前だったんだな。お兄さんはそれを見越して、手紙を送ってくれたのかな。


「帰ってきたリュウは、自分に足りないところを自覚して、立派になっていて驚いた。君のおかげだ。ありがとう」


リュウの師匠は感慨深げにそう言ったけど、俺としては消化不良。俺は本当に何もしちゃいない。勝手に召喚されて、ズルズルと偽装夫婦してるだけだ。


お兄さんとリュウの師匠が立ち去ると、俺は壁際にすすっと移動して椅子に腰かけた。俺はリュウのために、一切何にもしてないんだよなあ。大広間の向こう、リュウがお兄さんに捕まってるのが見えた。何言われてんのかな。あとで聞き出してやろっと。


そんなこと考えながらボーッとパーティーのざわめきを聞いていると。

不意に、歓声が上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る