第9話
朝から夕方まで学校。そのあと、週に何回か市場でバイトすることになった。
紹介してもらった店は屋台。市場で働く人が小腹を空かせたときに買いに来るような、そんな屋台。
そこでの俺の仕事は、ひたすらキャベツを刻むこと。肉を焼くこと。店主のおじさんがクレープみたいなの焼いて、そこにキャベツと焼いた肉をくるくる巻いて出来上がり。
バイト始めてしばらくは夢にキャベツが出てきたけど、だんだん慣れた。
それに、肉が余ったら持って帰らせてくれるので非常にありがたい。食費が浮く。キャベツも持ち帰らせてくれる。それは野菜スープとして生まれ変わる。
今日も肉を持ち帰らせてもらい、晩飯のおかずに出した。おじさんが下ごしらえしてるので、焼くだけでオッケーなのだ。ありがたい。
そうやって飯を食いながら「今日は学校でこんな勉強した」とか話してたときだった。リュウが目をぱしぱしさせて、俺の腕をじいっと見た。
「ケガしてるんじゃない?肘のとこ」
腕を曲げて肘を見てみる。確かに、赤くなっていた。
「あ?ほんとだ」
そういえばバイト中、肉を焼いてるときに鉄板にちょっと触れたような気がしないでもなかった。慌ただしかったので気に留めなかったけど。
「ショウは痛みに鈍感なんだね。信じられないよ」
リュウは俺を野蛮人だと言わんばかりの呆れた表情。そして、食事中だというのに席を立った。タンスを何かゴソゴソしたと思うと、手にハマグリみたいな貝殻を持って戻ってきた。
「火傷に効くよ。ボクが作ったんだから効果抜群」
貝殻はただの二枚貝じゃなくて、中に塗り薬が入ってた。
「…ありがと」
変なニオイがしたけど、リュウの親切をありがたく受け取った。時々気の利く行動をするので、そんなときは調子が狂う。
その翌日。
学校終わってバイトへ向かい、キャベツと格闘。だりゃりゃりゃりゃっと千切りにしていく。夕方の時間帯、日が暮れる頃は一番忙しい。切っても切っても切らなければいけないキャベツ。
「ショウくん、そろそろ休憩していいよ」
忙しい時間を乗り切ったら、店主のおじさんはそう言ってくれる。屋台から出て、ぐーっと伸び。向かいの店では、俺にバイト紹介してくれた友達が働いてるのが見えた。
ちょっとストレッチしてから店に戻ろう、そう思って体をねじったとき。八百屋の陰に、見たことある人物がいた。
…見たことあるっていうか、毎日見てるけどね。
「おい、リュウ!」
俺が呼ぶと、リュウは気まずそうなごまかし笑いをしながら近づいてきた。そして、聞いてもいないのに言い訳を始めた。
「いやー…。仕事、早く終わってさ。ショウが真面目に働いてるのか、気になって見に来た」
過保護か。お前は過保護な親か。それとも、昨日の火傷が気になったのか?
「さっさと帰ってメシでも食っとけ。今日は作り置きしてるから、自分で温めろよ」
しっしと手で追い払う仕草をすると、リュウは怒るでもなくヘラヘラ笑って俺に手を振った。
「うん。そうする」
市場の人波に消えていくリュウの背中を見て、店に戻ろうとした。そしたら、向かいの店で友達がニヤニヤしてるのが見えてしまった。嫌な予感しかしない。
次の日、案の定からかわれた。授業が始まる前の教室で、数人でわちゃわちゃ話してるとき。
「昨日、ショウの旦那さん見ちゃった。ショウのことが心配で、働いてるのわざわざ見に来たんだって」
会話までバッチリ聞かれてた…。俺にできることは、机に突っ伏すことだけ。
「えー?どんな人だった?」
「優しそうな人だったよ。顔は…普通よりはカッコイイって感じ」
その評価、正しい。言動は失礼なこと多々だが、パッと見は優しそうに見える。顔も、まあまあそこそこカッコいい。
「ショウ、愛されてるなー」
なぜこんなラブラブ夫婦みたいな扱いを受けなければならないのか…。何も聞こえないフリして、授業が始まるのを待つ。時間の経つのが、とても長く感じた。
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