第7話
謝るために昼過ぎに外出したリュウは、日がとっぷり暮れてから帰って来た。
帰ってきたリュウは、にっこにこだった。謝ったリュウを、師匠は快く許してくれたとのこと。ううーん、“快く”ってのはアヤシイ。実際はお小言の一つや二つや三つはあったんじゃないだろうか。
…けど。お小言くらったとしても、謝ったらアッサリ許してもらえたんじゃねーか。お前は1年も何をしてたんだ。俺を召喚した意味ゼロじゃねーか。
と、嫌味のひとつでも言いたかったが、リュウの楽しい気分に水を差すのは我慢。耐える。
「ショウ、聞いて!師匠の口利きで、王立魔道研究所で働けることになったよ」
お前は子供かってくらいの喜びように、イライラしてる自分がバカらしくなる。
「王立?何だか分からないけど、すげー響きじゃねーか」
もしかしてコイツは、本当に優秀な魔導士なのだろうか…?王立って、エリートの匂いがしないでもない。初めてリュウを見直したが、リュウはすぐに顔を曇らせた。
「下っ端研究員だけどね」
優秀な自分が!と、師匠への文句を言いだすのかと思いきや、ただ溜め息吐くだけ。
さすがに許してもらってすぐに師匠とケンカするほどバカじゃないのか。
「どんな仕事をするんだ?」
「魔石の効率化が一番の仕事かな。小さくても長持ちさせる研究とか、魔石で新しいことできないか研究したりとか」
「その研究所はどこ?王都?」
「うん、そうだよ。お城の近く。あ、そうだ!ボクたち、研究所が持ってる集合住宅に入れることになったよ。やれやれ。実家は落ち着くけど、兄さんがいると落ち着かないからね。一安心だよ」
ということで、俺たちは研究所の集合住宅、早い話が社宅に移り住むことになった。
王都に来て、三日目。
社宅は村の小屋…、じゃなくて家よりもだいぶいい部屋だった。キッチンとダイニング、そして寝室がひとつ。
村から持ってきたカバンを抱え、部屋を見て回る。
「家具付きだけど、ベッドひとつしかないな」
村では、リュウはベッド、俺は堅い床に何枚もゴザや布団を敷いて寝てた。ここでもそうするしかないか。
「夫婦用の部屋だからね。家具屋に買いに行こう」
「…その金の出どころは?」
「結婚祝いってことで、兄さんにちょっとお金貰ったんだ」
リュウはニヤリと笑ったけど、俺は脱力。援助してもらわない決意はどこいった…。
「お前な…」
俺がそう呟くと、リュウは一歩下がった。俺にしばかれると思ったのだろうか。
「これは結婚祝いだから!援助じゃないから!…でも、買うのは中古ね。もしくは、型落ち品。いつ何が起きるか分からないからね…出費は控えないと」
俺たちって、いつか経済的余裕のある生活が送れるのだろうか。
いや、運命共同体ってわけじゃないけどさ。俺はまだ、この世界でひとりで生きていく自信がない。自信がつくまで、見通しが立つまで。それまではリュウの世話になるしかない。
そして、社宅での生活が始まった。
リュウは朝出勤し、日が暮れる頃に帰ってくる。サラリーマンのよう。
俺はというと、この社宅に移り住んで数日は部屋を片付けたり生活しやすいようにアレコレしてたが…。掃除と料理以外、別にすることもない。薬草を摘みに行ってた日が懐かしい。
だから、晩飯の時に俺はリュウに提案した。
「なあ、俺も働きに出てみようと思う」
リュウは持ってたスプーンをカランと落とした。
「えっ?外で働けるの?大丈夫?」
なぜそんなに驚く?
いや、しかし…。王都に来てから、リュウは俺に働けとか金稼いで来いとか、そーゆーこと一切言ってない。働く能力がないと思われてたのか?
「言い草が失礼なんだが」
俺のムッとした表情は気にせず、リュウはスプーンを拾って食事を再開した。葉っぱしか入ってない野菜スープを口に運びながら、ウーンと唸って、そして何か素晴らしいことを閃いたと言わんばかりにまたスプーンを落とした。
「あ!学校に通うのはどう?」
「学校?」
「うん。ふらっと仕事探しに行ってもいいけど、学校で勉強して資格取ったほうが給料高くなるよ。学費は任せなさい。兄さんに貰ったお金、まだ残ってるから」
リュウは渋るでもなく、むしろドンと来いという勢い。
「…いいのか?」
「いいよ。結婚祝いという名目のお金だからね。ショウも使う権利あるよ」
アハハと明るく笑うリュウ。良い奴なのか、バカなのか。どっちなんだろう。
どっちかは分からないけど、リュウはウキウキと話を続けた。
「ショウは計算が得意だから、事務関係の資格が取れる学校なんかいいんじゃない?
で、もし、ボクが仕事クビになったら、今度はショウがボクを養ってくれる?」
いやいや、養うって…。俺たち、夫婦じゃないし。まあ、今の俺はリュウに養われてるわけだが…あくまで被害者だからね、俺。
ていうか、お前、まさかたった数日でクビになりそうなんじゃないだろうな…?
「資格があるほうが給料高いって、世知辛い世の中だなあ」
かたいパンを千切りながら、知った風に世の中のことを語るリュウ。
そういやコイツ、一度も俺の料理に文句言ったことないな。今頃そんなことに気付いた。
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