第4話

ある日のこと。

薬草を摘んで家に帰ると、狭い家の真ん中で手紙と思しき紙を手に、ワナワナ震えているリュウがいた。


「どしたん?」


俺が声をかけると、持ってた紙をテーブルの上に置き、そして俺の手をガッと掴んだ。


「ヤバい…。非常にヤバい。逃げよう!」


「何だよ。駆け落ちでもすんのかよ」


冗談でそう言ったら、リュウはパッと俺の手を離した。


「そうだ!別にショウと逃げなくてもいいんだ!ボクひとりで逃げるよ!」


コイツ…。どうしようも無いヤツだな。勝手に召喚したくせに、俺を放置しようとするのか。

ていっと軽く蹴りを入れると、リュウはよたよたと椅子に腰かけた。


テーブルの上の手紙を、勝手に読んでみる。


『次の満月の夜までに、家に帰ること』


差出人の名前の無い、短い文だった。


「誰から?リュウの師匠?家族?仲直りのチャンス?」


「兄さんからだ。その紋章は、家のものだから…。…ああ。どうしよう。バレてしまった」


リュウはテーブルに突っ伏し、混乱と悲しみと情けなさの入り混じった声を出した。

だけど俺は疑問。


「何が?バレたって何?」


「居場所だよ。ここにいること。縁もゆかりもない土地に逃げてきたっていうのに…このままじゃ…」


え?“逃げてきた”って何?ケンカして家を飛び出したんじゃねーのか?


「おい。最初から話せ」


リュウの座る椅子の足を軽く蹴って、話を促す。


「黙ってたけど…。ボク、貴族なんだ。家は王都にある」


「ほう」


「といっても、下級貴族だけどね。まあ、それは置いておいて…。師匠とちょっとケンカして、師匠とケンカしたことを兄さんに咎められて…」


「ほうほう」


ちょっとケンカ、というのは怪しすぎる。何をしでかしたんだろうかリュウは。

けど、今はとりあえず全部話させよう。


「兄さんに“態度を改めないと、お前を隣国の貴族の家に嫁がせるぞ”って脅されたんだよ」


「ふーん。嫁に行けばよかったのに」


おっと。素直な感想を言ってしまった。そんな俺の感想に、リュウは悲壮な声を出した。


「隣国の貴族ってのが、家同士の付き合いで何度か会ったことあるんだけど…。

太ったハゲのオッサンなんだよ。あー!イヤ!絶対イヤ!」


何だコイツ…。子供か。いや、気持ちは分からんでもないけど。だけど、リュウの人となりを知っている身としては、呆れる気持ちが先行する。


「ワガママ言うな」


俺の言葉は耳に届かなかったようで、リュウは勝手に話を続けた。


「ということで、ボクは家から逃げたんだ。でも、このままじゃいけないと思って。師匠に認めてもらって、かつ、嫁に行かずに済む方法…。それが神子の召喚だったのに」


恨めし気に俺を見るリュウ。おい、俺のせいじゃないから。失敗したの、お前のせいだから。


「オッサン、良い奴かもしれないじゃん」


「あのね。例え良い人だとしても!嫁には行けない!オッサンと夫婦になりたいって思わない!それに、ボクは旦那になりたい派だから!嫁じゃないから!」


「知らねーよ!」

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