第3話

勝手に召喚された身分だけど、何もしないわけにはいかない。


「いい?こーゆーの。ひょろっとしてて赤い実がついてるやつ。ときどき青い実のやつもあるけど、それは触ったらダメなやつだから」


何はなくとも、飯を食わねば死んでしまう。先のことは分からないけど、とりあえず明日の生活のために俺が今できること…。

俺は、薬草を採りにいく係を任命された。

一週間くらいはリュウと一緒にあっちの森、こっちの小川、むこうの草原…薬草の生えてるとこをぐるぐる回った。

そのあとは、リュウがヘタクソな絵を描いて、それを元に薬草を探しに行くことになった。


村の人たちは、突然村に住み着いた俺を特に不審がってる様子もなかった。というか、やけに親切にしてくれた。


「この服、息子が若いときに着てたのだけど。よかったらどうぞ」

「野菜がたくさんとれたから食べてくれ」

「昨日の雨で草原はぬかるんでるから、行かないほうがいいよ」


とか。そんな感じ。

リュウは「ボクの人徳だね!」と嬉しそうにしていたが、果たしてそうなのだろうか。


いや、違った。そうじゃなかった。別の理由があった。


薬草摘んだ帰りに、男同士で手を繋いでる村人を見た。

正直「…お、おお」って感じで驚いたのだが、そのふたりを見てた他の村人が「あそこはいつまで経っても新婚気分ね」と笑顔で見守ってた。


そして、その村人が俺に言ったのだ。


「リュウさんとの生活は決して楽じゃないでしょうけど…。頑張ってね」


俺は察した。

俺とリュウ、カップル、もしくは夫婦だと思われてる…。

生活苦しいカップルが、村の人たちによって支えられてる。それが今の俺とリュウのこの村での状況。


俺は曖昧に微笑んで家に帰り、リュウにさっきの出来事を大声で言った。


「俺とお前、同棲してると思われてるぞ!」


乾燥させた薬草をごりごりしながら、リュウは顔をしかめた。


「え?うそ?ショウと?うわー…イヤだな」


「ていうか、同性婚ってアリなの?」


「うん。でもショウとはムリ!絶対ムリ!野蛮人だもの…」


同性婚をなんでもないように言ったので、ああそうなんだと納得。しかし、俺たちがカップルというのは村の人たちに訂正入れていかねば…。なんでこんなヤツと…。

失礼なことを言ったリュウにツッコミ入れるのも忘れ、俺は頭を抱えた。



次の日から村の人たちの誤解を解こうと試みるも、「あらあら、照れちゃって」とスルーされまくった。そんな数日送ったある日。


「今日は摘みにいかなくていいよ。天気がいいから、薬草を乾燥させるの手伝ってよ」


朝、寝ぐせが付いたままのリュウに言われた。


「分かった」


朝ご飯のお粥を食べながら返事。このお粥の作り方は、村のおばちゃんに教えてもらった。村のおばちゃんたち、親切だ。…誤解は全く解けないけど。


薬草を乾燥させる作業。家の前にゴザを敷いて、その上に葉っぱや草を並べる。これを数日繰り返して、カラッカラにするようだ。


午前中の作業は終わりかな。そんな時間帯だった。

おばちゃんがこっちに来るのが見えた。薬を買いに来たのかなーって思ったが…。


「リュウさん、広場に行商人が来てるわよ。何か買いに行ったら?」


村の外れに住む俺たちは、村で何が起こってるか知らないことが多い。今回のもそーゆーことだろうか。


「教えてくれてありがとうございます」


リュウがおばちゃんに丁寧にお礼を言うと、おばちゃんは俺とリュウを見てフフフと微笑みながら帰っていった。おばちゃん…。誤解だから。


それはさておき、出かける準備を始めたリュウに聞いてみる。


「行商人?」


「うん。村では手に入りにくいものが売ってるかも。行ってみよう」


ということで、リュウと一緒に村の広場へ。

どうやって運んで来たんだろうってくらいの、いろいろな商品が並べられてた。

食品、日用品、雑貨、服、アクセサリー。その他いろいろ。


「おじさん、光の魔石と、熱の魔石ください。…あ、安いのでいいです」


リュウが買い求めてる魔石。発電だったり発熱だったり、動力になったりする。科学とは違う、別の技術が発達してる。それがこの世界なのだ。


俺は並んでる商品の中、本を手に取った。不思議なことに、この世界の言葉が読める。その気になれば書けると思う。


「ショウ、字が読めるの?」


「読めるけど?」


「へー。てっきり読めないと思ってた」


「お前な…」


ビシッとデコピンでもしようかと思ったけど、リュウの一言に意表を突かれた。


「おじさん、この本もください」


本の値札は、一日のパン代くらいだった。俺のせいで苦しい生活してるとこもあるので、めちゃくちゃ欲してるでもない本を買うのは気が咎める。


「いいよ。買わなくて」


「本の一冊くらい平気だよ」


ヘラヘラ笑うリュウに、行商人のおじさんは何を思ったのか笑顔で頷いた。


「優しい旦那さんだね、よし。気持ちだけど、その本は一割引きしようか」


旦那じゃねーから!と、おじさんに言おうとしたけど、リュウは全然気にした様子もなく「あと、薬草を包む薄い紙と、密閉瓶もください」と買い物を続けた。


「じゃあ、全部でこれだけね」


おじさんはソロバンみたいな道具で、合計金額を計算。けど、示した金額に、俺は疑問。


「おじさん。それじゃあ安すぎない?魔石、薄い紙、瓶、それにこの本が一割引きだったら…」


俺はソロバンを習ってたので、暗算は得意なのである。実はソロバン段持ちなのである。


「そうかい?えーっと」


おじさんは首を傾げながら何回か計算しなおして、俺が合ってると分かったら感激してた。


「黙ってたら安く買い物できるのに、正直者だね。最初に提示した金額でいいよ」


おじさんの優しさに、俺も感激した。もっとも、その感激もリュウのせいで長くは続かなかった。


買い物した荷物を抱え、家に帰る途中。


「ショウ、あんなに早く計算できるなんてすごいね。人間、何か取り柄があるんだね!」


リュウの失礼な物言いに対し、反射的にぺシンと叩く。

本を買ってくれたことに対し、お礼を言うのが頭から抜け落ちてしまった。

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