第2話

俺を召喚した男は、リュウ・セリュウと名乗った。


「仕方ないから、リュウって呼んでいいよ…」


溜め息吐きながらそう言うので、ぺシンと叩いてみた。


「痛い…。やっぱり野蛮人だなキミ。キミの名前は?」


「祥吾。矢野 祥吾」


「ショウゴが名前なの?じゃあ、ショウって呼ぶことにするよ」


「何で勝手に決めるんだ」


そんな会話をしながら、地下室を出て階段を上った。


階段を上って、外に出ると…。

森の中にある、ボロボロの教会のようなところに出た。プレイしたことあるRPGな感じだなあと物珍しく見上げてたら、隣でリュウが溜め息吐いた。


「あの。これからボクの家にショウを連れて行くけど…。誰に会っても絶対に“異世界から来た”って言わないでね」


「言っても誰も信じないだろ」


「いや、ボクは優秀な魔導士だから、信じる人はいると思う」


お前、どうしてそんなに自信家なんだ。

ツッコミ入れたかったけど、さっきから何度もツッコんでるのでここは少し我慢してみた。


「けどね。失敗だから…。失敗はダメなんだよ。ショウは失敗だ。せっかく魔力の強い場所を探したのになあ」


「ヒトのこと、失敗失敗言うな!」


やっぱり我慢できず、リュウの額をペシッと叩いた。


森の中、道なき道を数十分歩くと、開けた場所に出た。道がある。あるけど、小道。完全なる田舎。


「なあ、リュウは宮廷魔導士なんだろ?ここ、ただの田舎だよな?宮廷じゃないよな?さっき言ってた“魔力の強い場所”ってのがこの田舎?」


「………」


「おい」


俺が迫ると、気まずそうにモゴモゴ言葉を紡ぎだした。


「宮廷魔導士は、ボクの師匠で…。ボクもいずれは宮廷魔導士って感じだけど」


「で、今のリュウ自身は?」


「ボク、師匠とケンカしちゃって…」


「………おい」


「しばらく頭を冷やせって師匠に言われて、あと、そのことで家族とケンカしちゃって。…今は、都落ちって感じかな」


「………」


ダメだ。コイツ、バカだ。こんなヤツに召喚されて、俺は一体これからどうなるんだろう…。路頭に迷うんじゃないだろうか、俺。今頃になって不安になってきた。帰りたい。自分の家に帰りたい。

急に心細くなりつつも、小道をさらにてくてく歩く。すると、農作業に向かうようなおばあさんが向こうから来た。

すれ違うとき、リュウが足を止めておばあさんに話しかけた。


「腰の具合はどうですか?」


「リュウさんにいただいたお薬のおかげで、だいぶ痛みが和らぎました」


「それはよかった。だけど、無理はしないでくださいね」


村の外れにあるリュウの家に着くまで、そんなやり取りを何人かとした。

リュウの家は、粗末な家だった。正直に言う。小屋って感じ。必要最低限の家具とベッドがあるだけの家。かなり生活苦しそうなんだが…。


幸いにも椅子は二脚あったので、そのうちのひとつに勝手に腰掛けた。


「リュウ、良い奴なんだな」


この家の様子じゃ、おそらく貧乏暮らし。だけど、困ってる人のために薬を作ったり何かしてるっぽいリュウ。


「ま…そうだね。ボク、人はいいほうだね。…仕事だからってのもあるけど。今は、薬を作って売ったり、まじないをして生計を立ててるんだ」


ゆっくりそう話すと、リュウはいきなりテーブルに突っ伏した。


「…ああ…!自分の生活で精一杯なのに、キミの面倒まで見ることになるとは…!」


「お前が原因だろ!」


ダメだ。良い奴って思ったけど、やっぱりダメだ。

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