異世界暮らし
のず
第1話
なんでもない、普通のある日の下校途中。今日の晩ご飯は何だろうなーと考えながら歩いてたら。
しゅいいーんと光に包まれた。
宇宙人にさらわれた…!?
と、瞬時に思った。慌てた俺は、カバンをぶんっと見えない敵に向かって投げた。けど、敵に当たった様子もなく。俺のカバンは俺の手を離れてしまった。そして、ジェットコースターに乗ったときみたいな、内臓ふわっと浮くあの感覚を味わい…。
あ、ちゃんと立ってる?なんて思いながら目を開けた。
するとそこは。
RPGで見たような、海外のファンタジー映画で見たような、石造りの広間。いや、広い地下室?
石でできた三角コーンのようなものが俺の周りにあって、そんで、20mほど向こうに人が一人いた。ローブみたいなの着て、フードをかぶってる。体格からして、男のようだ。
なんだここは宇宙船じゃなさそうだ…。と、ぽかーんとしてると。
「やった!成功した!」
フードの男がテンション高めで近づいてきた。
「ボクって天才!うん!やっぱり天才だったんだ!……あ、あれ?」
近づいて、顔が見えるくらいの近い距離になると、フードの男のテンションがだだ下がりした。そして、男は呟いた。
「なんかちがう…」
とっても失礼なこと言われた気がした。
至近距離でいぶかしげに俺を見るその男に、ここがどこか相手が誰かも考えず、すぱーんとツッコミを入れた。
決して殴ったわけでも、強く叩いたわけでもない。
なのに、男は大げさに驚いた。
「ひっ!やっぱり失敗だ!神子じゃない!野蛮人を召喚してしまった!」
俺が野蛮人だというのは決定事項のようで、男はビビりながら後ずさった。なんだかとっても失礼な態度を取られている…。
「あのさ、ここどこ?何?これ」
男はさらに後ずさった。少しぞんざいな口の利き方だったかもしれない。もう少し丁寧に話すべきだったか、と、ほんの少しだけ反省した。が。
「しゃ、しゃべった!」
「もう一回叩かれたいのか、お前」
男はかなりビビった様子で、べらべらしゃべり出した。
ここは別の世界で、コイツは神子を召喚しようとした宮廷魔導士で。
神子を召喚することができる魔導士は数百年に一度現れるかどうかで。
召喚に成功した魔導士は、名前が後世に残るとかで。
「召喚できたんなら、それで成功じゃねーの?お前は教科書に載るよ、きっと」
男はたくさん喋ったせいか、俺がひとつひとつに頷いたせいか、少し時間が経ったせいか、俺へのビビり度が下がっているようだった。
「いやいやいや。失敗です」
「どうして?」
「神子というのは、それはそれは美しいお姿をしているとかで…」
油断してる男の額に、水平チョップ。
「ひっ。神子というのは、穏やかで優しいとも伝わっている!国を安寧に導く存在だ!キミじゃないことは確かだ!」
再び後ずさった男は、俺を指差して無駄に否定してきた。勝手に呼び出したくせに、何を言ってるんだコイツは。
「そっか。じゃあ俺が神子じゃないなら、元の世界に戻してくれ」
深いため息を吐いて、男に頼む。
これは本当は夢なのかもしれない。実はまだ授業中なのかもしれない。けど、たとえ夢でも、溜め息を吐きたくなる。
「…」
頼んだにも関わらず、男は俺から目を逸らして地面を凝視。
「おい」
「………」
「お、い!」
詰め寄って至近距離で、できるだけ怖い声を出してみた。すると男は、ぽそっと小さい小さい声を出した。
「で、できません」
「どうして?」
男は意を決したのか、顔を上げてキメ顔を作った。
「呼び出す呪文はあっても、元の世界へ還す呪文はどの書にも書かれてない!」
「何を堂々と言ってるんだお前は!」
かくして、俺の異世界暮らしは始まったのであった。
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