第9話 壊れたペンの行方と新しいお友達

『レグスト・F・ゴルド様』……

他派閥なのであまりよく知りません。

確かたいへん愛犬家の方達だとか。




従魔舎で『銀色の大きな犬※1』を飼っていると聞きました。

不公平ですわ!

何故、犬が良くて猫はダメなのですか!?




それはともかく、問題は…ピピナのペンの行方です。

たぶん、『誰かが踏んだ』のはペンでしょうね。

さて、どうやって人物を特定すれば良いのでしょうか?




まさかアークやミリアに頼む訳にもいかないし……

姉に相談しに行くと、話をする前に本を6冊渡されました。




それは他国で発売された推理小説の一種で【衛兵隊物※2】と言われる物語で、『城下町で起こるいろいろな事件を衛兵さんが解決していく。』という物を子供向けにエミール殿下が翻訳した本でした。




「エミール殿下から『貴女達にも渡して欲しい。』って、預かって来たわ。

良かったわね。殿下のサイン入りよ♪

しかも、初版本!」

そう言って、姉は直ぐ何処かへ行ってしまいました。




けっこう厚い本でしたので、部屋から付いて来てくれたミリアに3冊持ってもらい、残りは部屋に置いて行きます。

男の子達には明日渡す事にして、さっそくピピナ達に渡しに行きました。




翌日、私達4人は寝不足で、授業を受ける事になりましたわ。

だってこの本、続きが気になって読み出したら止まらないんです。




結局、切りの良いところで、ミリアに取り上げられました。




男の子達に渡したら、彼等も直ぐにハマってしまい、休憩時間中6人でそれぞれ読んでいたら、読書好きのグレース様から、『是非、読ませて欲しい。』と言われましたの。




残念ながらこの本は、エミール殿下から頂いた貴重な本で、おいそれとお貸しする訳にも行かず、昼食時に姉の所にグレース様と会いに行くと、

「それなら、学園街の【本の湊】という書店で明後日から発売されますよ。

午後2時からサイン会もありますから、もし良かったらいらっしゃる?

私達もお手伝いで参りますの。」




私達というのはきっと姉とエミール殿下の婚約者のサーラ様ですわね。




グレース様は凄く喜んでいました。

エミール殿下の翻訳した小説のファンで、今までずっと他国語で読んでいたため、読むのにたいへん時間がかかっていたそうです。




【サイン会】行きました。




私達6人とグレース様で行ってみると、書店の中は妙に厳つい書店員と、客がいて凄く入り難かった事を報告させて頂きます。




その帰り道、グレース様が『【文房具館】に、注文していたインクを取りに行く』と、言われたので、一緒に行く事にしました。




ここで私は、気がつきました。

犯人は『ペンを踏んで壊した』、という事はもしかしたら『修理』に出したかも知れない。




念のために確認すると、店員から先日『ペンの修理に来た初等部の学生』がいた事を聞く事が出来たのです。




『ペンの修理に来た初等部の学生』は、

何と、あの他派閥の侯爵家の次男レグスト様でした。




さっそく本人を呼び出し、問い詰めたところ、

『教室で遊んでいて、ピピナのペンを壊してしまい謝ろうとしたけど、他派閥なので言い出し難く、とりあえず修理に出した。』

そうです。

『修理が終わったので謝罪しようとしたら騒ぎになっていて余計に言い出し難くなってしまった。』のだとか……




他派閥と言っても、特にいがみ合っている訳でも無いのだから、普通に話かけてもらっても良かったのですが……




とにかく、お互い会って話合わなくてはいけません。

もちろん、謝罪はしてもらいます。




翌日、アークに頼んでサロンの一室を貸し切りにしてもらい、私の立ち会いの元、レグスト様からピピナに謝罪をしてもらう事になりました。




その際修理したペンと、お詫びに買ったという新しいペンと可愛いレターセット、そして何故か薔薇の花束を持っていましたわ。




「ピピナ嬢、今回は…僕の不注意で大事なペンを壊してしまい申し訳なかった。」

顔を赤くしながらピピナに謝罪する、レグスト様。




それに対して、頬を赤く染めながら

「はい…私、レグスト様の謝罪をお受けします。

それに…お詫びに頂いたこのペンとレターセットとても可愛いくて、気に入りましたわ。」




更に顔を赤らめながら嬉しそうに会話する2人……

アレ?これってもしかして?!




「あ…あの…ピピナ嬢!こんな事をしてしまった後ですが、よ…良かったら、僕ともう少しお話しをさせてもらえますか?」




あら?




その言葉にピピナも真っ赤になりながら、

「あの…私で良いのですか?

派閥も違いますし……。」

と、心配気なピピナの言葉に、レグスト様は、

「いや、大丈夫!別に敵対派閥という訳ではないし。」




これ以上、私がここに居たら、お邪魔ですわね。

「あの…じゃあ私は寮に帰りますわね。

後はお2人でお話し下さい。」

そう言って、私はその場から立ち去ろうとしたのですけど……




「ダメですわケイト!未婚の貴族の男女が、密室で2人きりなんて、許されません!」




た…確かに……





「では、扉を少し開けておくとか……。」

私の提案に今度はレグスト様が、

「却下だ!君は、僕が彼女と話している様子を、晒し者にする気か?!」




うぅ…正論だけに反論出来ないです……




この後、私は2人のイチャイチャを、退室時間いっぱいまで見せられる事になりました。



―――――――――――――――――



※1

【銀色の大きな犬】

犬じゃなくて『フェンリル』でした。

そして、こっちも名前がシルバー。



※2

【衛兵隊物】

現代物でいう『刑事物』に近い小説。


騎士は軍人なので、基本的には捜査活動はしません。


第四騎士団は【公安】【貴族犯罪】担当。


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