3 狂気に溺れた王国①

「これが王都の中か」


 王都へ入るとまず目に入ってきたのが、広く長く、城まで伸びた緩い坂道。

 石畳で敷き詰められた街道はとても美しい、ひと目見ただけで中世ヨーロッパを感じさせる。

 建物は茶色い木の枠で組まれ、漆喰しっくいで固められた純白な壁は、この夜の街並みで一際目立っている。

 もう時間も遅いはずなのに、街は明るく賑わっていて、人も沢山歩いていた。


「さすが王都ね、こんな時間になっても輝いてるわ」


 とりあえず、今日は宿を探して一晩を過ごすらしい。

 俺たちは今、安く泊まれるところを探している。

 あ、そうだ! これだけ人もいるんだから聞いた方が早そうだな。


「あのっ」


「・・・・・・」


 一瞬止まってくれたけど、表情ひとつ変えず何事も無かったかのようにまた歩いていってしまった。

 

 なんだ今の人・・・・・・感じ悪いなぁ。

 まぁ人は沢山いる、他の人に聞けば宿にもたどり着けるだろう。


「 すいません 」「すみません」「あの!」と、いくら聞こうと誰1人答えてくれない。 何だこの街、良かったのは見た目だけか・・・・・・?


 もしかしたらマリンが言ってた「国王と目を合わせるな」ってのと関係があるのかな。

 まぁいいや、宿くらい自分で探そーっと。


「あ! マリンあそこなんてどうだ?」


 大人1人で銅貨3枚、銅貨1枚がどれくらいの価値なのかは分からないけど、何となく安そうな気がする!


「おいマリンどーした? こんだけ人がいるんだ、早く行かなきゃ部屋がなくなっちまうかもしれないぞ」


 突然マリンが俺に背を向け、チラチラとこちらを見ながら頬や耳、顔全体を真っ赤にして胸を軽く押された。

 俺は少しよろけるがすぐに体勢を戻し、マリンに近づく。

 マリンは嫌に顔を隠すし、顔も赤いようだから熱でもあるのかと思い額に触れた。

 

「ち、違う・・・・・・」


「何が違うんだよ?」


「あれは・・・・・・いわゆる、ラ、ラブ」


「なっ!? す、すまん!」


「あっちの方にも宿があったから、行きましょ」


 俺たちは少し気まずい空気の中、マリンの言う宿へ向かった。 

 それほど遠くはなく、歩いて3分くらいだった。

 こっちは普通の宿なようだ・・・・・・

 俺は先に宿へ入り、念の為いやらしい場所じゃないかを確認して、マリンを入れた。

 何してんだ俺は。


「いらっしゃーい、2名様ですか?」


「はい、そうです」


 カウンターの奥から、半袖に短パン、エプロンをつけたフロント係らしき女性がでてきた。

 短髪と小麦色に焼けた肌は、この女性の元気の良さを表しているようだ。


「大人ふた・・・・・・1人と子供1人で銅貨4枚よ」


 マリンは小袋の中から銅貨6枚を取り出しカウンターに叩きつける。 

 マリンは自分と俺に指をさし、最後に力強く銅貨を指さす。

 すると何も喋らず、ただフロントさんに笑顔だけを見せ部屋の方へ歩いていく。


「は・・・・・・はい、大人2人ですね、どうぞ! 2階のお好きな部屋を使用して下さい。 使用する部屋の扉に札がかかっているので、その札を裏返して部屋を使用して下さい、また、チェックアウト時は札をドアノブ部分にかけてて下さいねっ」


 と説明を受け、俺も部屋へ向かう。 

 あれ、どこに入ったんだ? おっ、あそこの扉の札だけ裏返ってる。


「ここか」


 俺は何も考えず、ただ札が裏返っているってだけで、その部屋のドアノブに手をかけ開けた。

 玄関で靴を脱いで奥へ進むと、何かギシギシと音が聞こえる。


「おーいマリン、何してんだー?」


「あぁん?」


 寝室の扉が開き出てきたのは・・・・・・俺が見上げる程に大きな男だった。

 額が完全に出たベリーショートヘアに、多分紫色の髪、瞳は鋭く目を少し合わせているだけでも怖い。

 大男の体型や瞳から恐怖で体が動かなかったが、何とか口だけは動いた。


「ま、まま・・・・・・間違えました!」


「おぉそうか、さっさと出ていきな」


 そして、この男は何故全裸なんだ。

 俺は男に言われた通り、すぐに玄関へ戻った。

 扉を開くと店の光が部屋に差し込む、入った時は気づかなかったけど、男の靴と、別に玄関の端の方に女性物の靴があった。


「な、なるほどな・・・・・・ははっ」


 謎が解けた。 ギシギシと響いていたあの音は、推測からベッドで何かをしていたに違いない。 

 男は部屋から出てきたがパンツ一丁ですらない全裸で、部屋は暗かった。 

 そして玄関には女性物と男性物の靴が一足ずつ、香水のような甘い香りも匂った。

 これ完全にヤってんな。 

 冷静すぎにも程があんだろあの巨人・・・・・・

 てかその冷静さがあるならラブホに行け、値段も変わんないんだし。


 俺は部屋を後にし、2階部分全ての部屋を探した。

 でもマリンは見当たらない。 

 俺はもう一度カウンターに戻り店員さんに2階で間違いないか聞いたら、やっぱり間違ってなかった。

 俺は念の為に1階部分を探し始める。

 101、102、103と開き、

「次は104号室と・・・・・・」


 あ、マリンの靴だ。 てか何で1階にいんだよ。 2階のお好きな部屋ってマリンもちゃんと聞いてたよな。


「全く・・・・・・」


 少し疲れた顔をしているだろうか、顔の皮膚に重みを感じる。

 俺はとぼとぼと寝室へ向かい扉を開けると、おっとなんて事だ、マリンちゃんはもうぐっすりとおやすみじゃないか!

 

「もしかしたらこの子、ヤバい子なのかもしれない」


「みどり・・・・・・何か言った?」


「ひぇっ!」


「ひぇっ! って乙女に向かって失礼ね、早く寝ましょ、み・ど・り・く・ん」


「は、はいっ」


 起きてたのかよ・・・・・・それになんだあの狂気じみた笑顔。 

 はたから見れば普通の可愛い笑顔なんだろうけど、さっきのこともあってマリンの笑顔にイライラが混じってるのを感じたよ。


 俺はこの汚れた状態じゃ寝れないと、浴場へ向かう。

 浴場へ着くと、他に誰かいるのか服が置いてあった。 

 こんな時間なのにまだ人いるのかな。


 俺は扉をそーっと開けた。 すると、そこに居たのは、

「さっきの・・・・・・き」


 巨人だ。 明かりのあるとこで改めて体見ると、凄い体だなぁ・・・・・・筋肉と筋肉の彫りが深い、こりゃ女もイチコロだ・・・・・・


「おぉ、さっきの! さっきはすまんかったな」


 なんだ!? 優しいぞ怖い!

 マリンが怖くなったと思えば、入れ替わるようにこの男が優しくなった。 

 マリンとこの男、中身でも入れ替わったか・・・・・・?

 何かこの男とは嫌な縁を感じる・・・・・・


「俺は梅雨黒 神つゆぐろ しんってんだ、兄ちゃん名前は?」


「あ、天津 緑あまつ みどりです。 どうも」


「おっけー覚えとく! じゃあ俺出っから、またなみどり」


 急に人格が変わったように・・・・・・どうしたんだ。 明日になったらさっさと買い物済ませて王都を出よう。


 でも、少しだけ仲良くなれそうな気がする


 また会えたら、声掛けてみようかな・・・・・・

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