2 王都へ
急に大声をだしたり、一瞬しか感じとれなかったが、さっきの雰囲気といい何か様子がおかしい。
それと・・・・・・忠告ってなんだ?
「国王オルカ・フォード・ハリアと目を合わせてはいけない・・・・・・絶対に!」
力強い瞳を俺に向け、拳をぎゅっと握る。 声を震わせ、荒らげて、俺にそう告げたマリンは・・・・・・涙を流していた。
聞き出さなきゃ、マリンちゃんが何故こんなに悲しそうなのか。
そして、守ってあげないといけない、このいたいけな少女を。
「マリンちゃん・・・・・・前に、何かあった?」
「私の両親は、国王の遣いと名乗る者に連れられて王都へ向かったの。 その日から今まで・・・・・・父と母の顔を一度も見ていない。 今どこで何をしているのかも分からない、生きているのかも・・・・・・」
その日から父と母からの愛情を受けず、今に至るということか・・・・・・それは辛いな。
俺がなんとかしてあげられる事だったらいいが。
「私はあいつを、オルカを殺したい!」
全身や瞳から、物凄い殺気がひしひしと伝わってくる。 だが今の俺は・・・・・・何をしたらいいのか分からない、いったい俺に何が出来る?
この世界に来てまだ日も跨いでいない俺に、一体何ができるのだろう。
「とりあえずこの国の王が、限りなくやばいヤツだってことはわかった」
すごく息が荒い、でも今はただ可哀想だと思うことしかできない。 助けになれない事が・・・・・・死ぬほど悔しい。
「取り乱してごめんなさい、王都へ向かいましょ」
乱れた髪と服をサッと直すマリンの姿は、悲しみを拭いきれない自分へ、落ち着けと言い聞かせているように見えた。
俺がこの世界に呼ばれた理由・・・・・・もしかしたら、こういった人々を救う、何かがあるからなのかもしれない。
「ところでマリンちゃんは何をしに王都へいくんだ?」
少し落ち着いたのか、顔の血色が良くなっている。 ひとまず良かったと言うべきか。
「果物とお肉、それとおじいちゃんに頼まれた資材よを買いに行くの。 ところでいつまでちゃん付けで呼ぶ気? マリンでいいわ」
「王都へ買いに行くしかないのか?」
直線距離だとそれほど遠いわけではないだろうけれど、山を越えなきゃいけないんだ、買い出しにしてはちょいと道のりがきつくはないか?
「安全な果物は王都にしかないのと、ちょっと奮発していいお肉を買いにね。 ついでに資材、ちなみに王都まで丸一日はかかるわ」
「そ、そうか」
丸一日か・・・・・・ちょっと憂鬱だ。
*
俺たちは歩き続けて半日、既に山の中にいた。 そろそろ頂上だろうか、少し空気が薄くなってきたような気がする。
「おいおいおいカップルでお出かけかーい」
「いやーんこんな何もないところで一体何をする気だったのー?」
「あっはっはっはっは」
すると突然、イカツイ男6人が俺たちの前に現れ、わざとイラつかせるような言動を起こす。
確かにムカつくけど、ここは冷静にいきたい。 マリンはどうだろう・・・・・・
それに・・・・・・なんだあれ、男たちの頭の上にぼんやりとだが数字が見える、35、17、48、27、50、32、でもマリンには表示されていないし、おじさんにも表示されてなかった。
年齢では無さそうだ、あいつ50にしては若いし、それにあいつは17にしては老けすぎている。
心做しか体が軽くなってるような・・・・・・やっぱ気のせいか?
俺はチラッと一マリンの方を見る。
「えっ」
なんて事だ! マリンは目を瞑ったまま全く動かないでいる。 まさか諦めたんじゃ・・・・・・
どうしようこのままだと俺たち。
「マリン」
「――行くわよっ!」
俺の声に被さるようにしてマリンはそう言うと、俺の手を握った。
「せーので思いっきり地面を蹴って! 行くわよ・・・・・・」
「「せーの」」
咄嗟に俺も掛け声を出す。 そしてマリンの言言うとおり、地面に足がめり込むくらいをイメージして、思いっきり地面を蹴った。
蹴ってから10・・・・・・20・・・・・・30秒、いくら時間が経とうと再び地面に足がつくことはない。
「な・・・・・・なんじゃこりやぁぁぁあ!」
下を見れば山賊が俺たちを見上げ、声を荒らげて「捕まえろー!」とか「逃がすなよ!」とか言ってる。
異世界と分かっていてこの状況、最初に俺の頭に浮かんできたのは
何となく感じていた。 もしかしたらこんなこともあるんじゃないかって、だから動揺もしなかった。
そこで思った。 さっきの数字、これは俺の能力に関係した何か・・・・・・でもここからだ、能力が使えるとわかったのは嬉しい、でも、この能力がどういったものなのか、どういう条件で発動するのか、調べることはまだまだ沢山ありそうだけれど、これは確実に大きな進歩だ。
「
「ん?」
落りるって言ったのか? 考え事しててちゃんと聞いてなかった。
マリンは再び目を瞑った。 すると体が急に重くなった感覚がすると同時に、地面へと引っ張れていく。
俺は恐怖のあまり目を瞑ったままだ。
「死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぁああ!!」
みっともないけどら叫ばずにはいられない。
「死なないわよ、ほらもう足着いてるわ」
なるほど、マリンは地面すれすれで再び能力を使い落下の衝撃を殺したということか、死ぬかと思ったぁ。
ところで気になるなぁ・・・・・・俺の能力、かっこいい能力でありますように!
俺は二礼二拍手一礼をし神に願ってみた。
「なにしてるの?」
あぁ、そうか。 こっちにはこの仕来りが存在しないんだな。
「神様に願ってたんだよ〜」
「何をよ」
「かっこよくなれますよーにって」
マリンはゴミを見るような目で、俺を見る。
そして見続ける。
「そろそろ傷つくぞ・・・・・・」
「バカじゃないの」
「ひっど!」
「さっさと王都へ行くわよ」
マリンの能力で麓まで一気に降りることができた俺たちは、他愛もない話をしながら王都へと足を進める。
そろそろだろうか、もう日も暮れ始め少し肌寒くなってきた。
「もうすぐよ」
「おぉ、そうか!」
山を一気に下れたのは大きかった、あれから2時間ほどだろうか、しばらく歩くと王都の明かりが見えてきた。
かなり高い城壁に、端が見えないほどの長さ。
俺の口は閉じるということを忘れる程に王都というものは凄かった。
でも、まさか買い物を済ませたらそのまま帰るわけじゃ無いよな。
だとすれば今日は
「・・・・・・2人きりで!?」
「何よ急に」
「いや、なにも・・・・・・」
「そっ」
村をで出てだいたい15時間くらいか?
俺たちは今城門の前に繋がる橋を渡っている。
城門には2人の兵が立っており、城壁の周りには水のたまった深い堀がある。
「こりゃ凄いな」
「えぇ、何度来ても驚くわ。 あの王さへ、ハリアの一族さへいなければ、この安全な王都に住みたいくらいよ」
マリンの父と母は、生きているのだろうか・・・・・・今、何をしているのだろうか。
橋を渡りきり、マリンはポケットの中から何かを取りだし、門兵へ見せる。
「何してるんだ?」
「許可証を見せてるの、これがないと王都へ入れないから、連れがいる場合は何も持っていないか入念に身体検査をされるわ」
「え」
その言葉を聞いたあと、名前を書く欄に名前を描き、城壁内での規則が書かれた紙を読まされ、サインを書かされた。
そしてムキムキな門兵2人に服を脱がされたと思えば、頭のてっぺんから足の先まで、まさぐりにまさぐられ、最後に「能力の詳細を調べるためだ」と言い、1人の門兵が俺の頭、こめかみ辺りを両手で挟むと「鑑定」とつぶやいた。
驚いたことに彼の能力は、こうする事で対象の能力がどういったものなのか分かるんだって。 ただ戦闘力は皆無に等しいらしい。
「能力は・・・・・・なんだこれ? 悪と認識した者の頭上に数字が現れる、悪であればあるほど数字は大きく、人数が多いほど能力者本人の力が増す」
「特に危害は無さそうだな、通っていいぞ。 帰りにまた声をかけるといい、許可証を作って保管しておこう」
数字・・・・・・山賊と出会った時のあれか!
それに俺のは身体強化系の能力って事か。 ただ力は相手の力量に左右されると。 使いこなすにはなかなか難しそうだな。
でもこれはいいことを聞けた、サンキュー門兵さん!
そうして俺たちは場内へ入る許可を貰い、とうとう王都へ入場ってわけだ。
「行くわよみどり」
「あぁ、いこう」
あわよくば、狂った国王の顔を拝んでみたいものだ。
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