フクザツな関係

 時同じくして、昇降口にて


「あんた、本当に私の言う事聴く気ある?

さっきの姿を見てると、そんな気は全然感じられないんだけど。この様子だと、をばらす事になるよ。」


 この一言が奔った瞬間、誠の動きが一瞬止まった。そして気怠げに身を翻しながら、弁明を始めた。


「その『あの事』だけで手伝える分が終わっただけで今までの約...一年間弱は手伝っただろ。第一、お前の証言でなんて...何でそれがある...」


 誠は、目の前の女子がその写真を持っている事が信じられないようだ。まるで幻の様だ、と。唖然とした誠を尻目に、千鶴は畳み掛ける。


「証拠ならここにあるよ。これでもっと手伝う気になったかなぁ?」


 まるでドS殺人鬼の様な笑みを見せる千鶴。小悪魔と揶揄する事が生ぬるく思える程だ。


「あんた、相変わらず外道だな。そこでしてあいつを別れさせたいのか。少なくともあいつは別れたそうだからまだましだが、相当クズだぞ。」


 それを聞いた千鶴は何かが面白かったのだろう。腹を抱え、コンクリの柱を叩きながら爆笑していた。そして正面を見据え、


「それなんの冗談?自分のことを棚に上げて何言ってるの?お前の方がよっぽどクズだよ。こう言うのを、特大ブーメランって言うのかな?」


 なんて事をほざいた。


 俺は約1年前こいつにとある弱みを握られてしまった。それからと言うものの、時には馬車馬の如く扱い、また時には歯車の如く酷使されてきた。これで最後と言われ頼まれたのは、あいつが彼女と別れるようにしろ、だと。


 もう、疲れたんだよ。


「そう言えば、あいつを彼女と離したい理由を聞いて無かったなぁ。なぁ、なんで何だ?別にお前とはなんの関係もn『あいつが許せないからよ!』


 千鶴は、断末魔に近い様な金切り声で叫んだ。そして誠は、地雷だったなぁと、聞いたことをアルゴン並みに軽く後悔する羽目になった。


「いつもあいつの隣にいるのは私だったのに...。あいつが...その場所を取ったのよ!いきなり現れて奪って行くなんて理不尽よ!彼を幸せに出来るのも、彼を一番愛しているのも...私だけ!」



 嗚咽しながら叫ぶ彼女は、どこか美しかった。コンクリの柱を殴った千鶴の手には血が滲む。肩を小刻みに揺らす彼女に呼びかける。


「今日はもう帰ろう。でないともうすぐ彼らが来る。お前だって、こんな姿は見られたくないだろう?」


 彼女は渋々頷く。ようやく誠は、束の間の平和をもぎ取ったのだ。誠は溜息を一つ溢して、


「あいつは奇人変人を引き寄せる力でも有るのね。」


そうひとりごちた。

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