第96話
電車に揺られながら早二十数分、河川を渡り終えると、目的地のターミナル駅に到着した。
人の波に乗りながら、これから行く場所について話を弾ませながら、改札を出る。
そこで、一際周りの注目を集める美人二人組を発見する。
……二人?
「どうも、咲也様。ごきげんよう」
「こんにちは、咲也先輩」
あちらも俺達に気づいて近づいてくる。雨林院希空と、真冬だ。
真冬様もいらっしゃるとは、偶然ですね。上機嫌そうにニコニコ笑っているのがとても気になるけど、一旦疑問は脇に置いて、挨拶を返す。
「こんにちは。真冬さんもいるなんて、奇遇だね」
「私がいてはいけませんか?」
「滅相もございません!」
滅相もございません。
真冬は、満足げににこりと笑う。一方、隣の希空は申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません、真冬に問い詰められてしまって……」
「いやいや、謝らないでよ希空さん。別に来ちゃだめってことはないから」
こちらこそ申し訳ない。
ほら頭を上げてよ。美少女に頭を下げさせるとか、往来のど真ん中で目立っちゃってるから。ほら。
必死の説得に、何とか顔を上げてくれたが、彼女は妹様とは対照的に、困ったような笑みを浮かべていた。
一体、どう問い詰められたのだろう……。
同情の念を禁じ得ないでいると、真冬と目が合う。
「ところで、咲也先輩。私に隠し事なんてひどいじゃないですか」
「え」
「私だけ仲間外れだなんて」
「いえ、あの……」
隠し事をしていたつもりはないんです。
元は亜梨沙の偏見を和らげるために始めたことだし、内容が内容だから玲明の子達には知られるわけにはいかなかったんですよ。
だから、元々は希空もメンバーにはいなかったわけなんです。信じてください。
「ふうん……」
そんな感じの言い訳じみた弁解をすると、ジト目で睨まれてしまった。
ヒエ……。
じっと値踏みされているような、絡みつく視線にぞわぞわする。
「……まあ、いいです。これで私も共犯者な訳ですから、次からはお声がけいただけますよね、先輩?」
一拍おいて、普段の表情に戻ると、彼女はにこりと微笑んだ。
こうして笑っていれば、すごく可愛らしいんだけどなあ。
「はい」
俺は絞り出すような声で答えた。というか、肯定以外の返答は許されていない気がしたよね。
ゲームに出てくる魔王様かよ。
やっぱりラスボスじゃないか。
ふと、後ろで「これは先が大変そうだね」と義弥が呟いたのが聞こえた。
くそう。他人事だからって……。お前もお前で色々あるだろうに。
ともかくとして。
俺の返事に納得したのか、真冬の機嫌も治ったので、あらためて目的地へ移動することにした。
移動といっても、駅と連絡通路で繋がったビルの中だから、スムーズだったけどね。大きな繁華街やショッピングモールもあり、中々便利な街だ。
ビルに入って、すぐのエスカレーターで一つ下の階へ降りると、目の前に目的のお店があらわれた。
「こちらがファミレスですのね」
はい、今日の目的地はファミレスです。
安さがウリで、ドリアが三百円で食べられる学生の味方として名高い優良店である。一回行ってみたかったんだよね。
案の定、窓から見える店内は、学生達で賑わっているようだ。ここならば、余程のことがなければ目立つまい。周りも学生だらけなのだから。
ここでなら、普通の学生らしい「寄り道」と、一般的な学生が食べる価格帯の料理のどちらも体験することが出来るので、まさに至れり尽くせりである。
かくいう俺も、友達と帰りにファミレスに寄るなんて、出来るはずもなかったので、今日をとても楽しみにしていた。
有名な看板メニューの味も気になるしね。
「思っていたより普通だね」
「そうですわね。トラットリアをモチーフにしているのかしら」
銀水兄妹は呟きながら、二人して店内を眺めている。
あ、窓際は人が座ってるから、あまり覗かない方が……。
君たちは、髪の色も容姿も目立つから、あまり目立つと変なのが話しかけてくるかもしれないよ。特に亜梨沙。
ほら。早速、他所の男子生徒達が気づいてチラチラと注目し始めているじゃないか。
好奇心の塊なのは、悪いことではないけどさ。周りを眺めるのは席についてからにしましょうよ。
「ほら、二人とも。入ろう」
俺が促すと、
「そうだね」
「早く入りましょう!」
と、二人して意気揚々と入店していった。
おーい、待ちなさーい。
君達、ファミレスの入り方分からないでしょう。まずは入口で何人か言うんだよ〜。
「お疲れ様です」
ふうと息をついていると、希空が労ってくれる。
「ありがとう。二人を連れて外に出かけるのは初めてだからね。何か起こらないか心配だよ」
「ふふ。そんなことを言って、咲也様も随分とお二人の扱いには手慣れたものではないですか」
そうかなあ。
振り回されてるだけじゃない?
「そんなことないですよ。亜梨沙さんと義弥さんを引っ張っていけるのは、先輩しかいませんもの」
ぴょこんと真冬も会話に参加してきた。
褒めてもらえるのは素直に嬉しいけど、それはそれで複雑なんだけどね。つまるところ、二人のお世話係が板についているってことだから。
いや、それって褒めてないのでは?
「あはは……」
苦笑する。
頼られるのは嫌いじゃないし、まあいいかしら。
なんて思っていると、不意に店の中からこちらを呼ぶ声。
「咲也、中に入ったらどうするの?」
「早く来てくださいな!」
ほれ言わんこっちゃない。
「行きましょうか」
「ああ」
俺達は、入口で堂々と佇む金髪美男美女に困惑している店員さんを助けるべく、後を追って店へ入っていくのだった。
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