第77話
小千谷楓——楓先輩は、原作においては中等部から玲明に通い始めた外部生という位置付けだった。風紀委員会にいたということは、この世界でも同じなのだと思う。
外部生とはいえ、小千谷家自体は由緒正しい家系で、むしろ世間一般でいえばかなり裕福な部類に入るはずだった。
しかし、彼女がまだ小さい時に事業が傾いてしまい、結果として大きな負債を抱えてしまったと、作中では説明されていた。
そのため、都心に持っていた家や土地を売り払い、地方へ移り住んだのだそうだ。だから、玲明の初等部には通うことが出来なかった。
幸いというべきか、楓先輩は非常に頭脳明晰だった。おまけに、「空気」を操るという、便利で実用的な能力を持っていたから、中等部の特待生を勝ち取り、晴れて玲明に入学してきたのだ。
しかし、玲明では、辛く大変な日々を送ったと原作では描写されている。
特待生として、また風紀委員会として、模範とあろうとする「外部生」の彼女を、面白く思わない子は多かったのだ。
元々、玲明は外部生への当たりが強い傾向があるから、尚更アウェイだったはず。
直接描写がないから何とも言えないけど、中等部で目立ったエピソードは語られなかった。けれど、作中の舞台である高等部で、内部生から向けられた誹謗中傷や嫌がらせはひどいもので、結果として彼女は高等部二年生の時に心が折れてしまう。
そんな彼女に近づく男子生徒がいた。
原作の咲也である。
とあるルートでは、その弱みにつけ込んで楓先輩に近づくのだ。
作中の咲也は、確実に小千谷楓の心の支えとなり、彼女を一種の支配下に置くことに成功していた。
もしかすると、俺の能力は外傷だけでなく心の傷も癒すことが出来るのかな。それとも、単に原作の咲也が言葉巧みに彼女の信頼を勝ち取ったということなのか。
細かい描写はないから分からないけどね。
後は、お察しの通り。
楓先輩は、咲也陣営の敵キャラとして、度々静樹達の前に立ちはだかる。
風紀委員会という立場上、生徒会メンバーと仲の良い静樹は、元々どのルートでも楓先輩と敵対しがちなんだけどね。
でも、このルートの先輩の強さは尋常じゃない。何しろ、多少体力を削っただけでは、後ろにいる咲也によって、たちまち回復されてしまうのだから。
ちなみに楓先輩は、普通に戦っても強い。空気を塊にして、指先から打ち出す基本攻撃は、動作が少なく速射性に優れているし、圧縮した空気を足場にして空中戦も出来る。
そこに咲也の回復が加わり、タフさが増したことで、手がつけられなくなってしまったのだ。
一体、何人のプレイヤーがそのルートでコントローラーを投げただろうか。
俺も投げそうになったよ。
全然勝てなかったので、意地になってプレイしていたら、思ったより熱中していたのか血圧が急激に上がってしまったくらいだ。
看護師さんからはしこたま怒られたっけ。
あの時の俺は、それ以外に熱中出来ることなんて他になかったなあ。
面白いのは、楓先輩が味方になってくれるルートもあるところだ。
普段は敵対しているのに、そのルートでだけ見られるふとした瞬間の笑顔や、芯の強さに心を動かされてしまうプレイヤーも多い。
内部生に虐げられながらも、愚直に風紀委員としての活動を続けた結果、少しずつ周りの信頼を集めていき、風紀委員長にまで上り詰める、この主人公感たるや。
推しではなかったけれど、よくパーティに入れて使っていた、思い入れのあるキャラだ。
だって、特定のルートでだけ仲間になってくれる敵キャラなんて熱い展開、すごい興奮するもんね。
だから俺は、自分のせいで彼女が退学になる姿なんて見たくないのだ。
エゴなんです。
真冬に知られたら、軽蔑されるかな。
それは嫌だな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます