第48話

 真冬の言葉の意味を考えていた。

 え、ギャルになるお許しが出るまで待っていてくださいって言っていたよね。つまり、真冬はギャルだったのか?

 というか、ギャルって何だ?

 あれ、どういうこと?

 気が動転している。

 深呼吸。

 ニヤニヤしているコンシェルジュに若干イラッとしつつも、ハーブティーを片手にテーブルに戻る。

 姉様と莉々様がじっとこちらを見ていた。


「やっぱり、咲也はギャルでなく清楚系が好み」

「咲也さんも隅に置けませんわねえ」

「うるさいよ」


 思わず突っ込む。

 そして、俺はたしかに清楚系も好きだけど、どちらかといえばギャルの方が好きだよ。

 違う、そうじゃない。

 まずは、落ち着いて考えたい。けど、


「それで、咲也は真冬さんのことどう思っているの」

「聞くまでもないですわ、ねえ?」

「莉々、いま私は咲也に聞いているの。咲也、どうなの?」

「……輝夜も大概ブラコンよねえ」


 姉と莉々先輩が姦しくて、少なくとも今は何も考える余裕はなさそうだ。

 そして、きっとこの二人は、俺がきちんと答えるまで帰してくれない。特に姉様は、家まで一緒だから、まず逃げられないでしょうね。

 俺は観念した。


「真冬さんのことは、気になってはいますが、恋愛感情なのかは分かりません」


 これは本当。

 たしかに俺は、彼女の行動に気をつけなければならない立ち位置にいるから、気にはなっているし、気にしている。自分の命がかかっているからね。

 しかし、少なくともその考えに基づく限り、俺が彼女を気になるという気持ちに恋愛感情はない。

 ない、はずなんだけどねえ。

 最近、真冬のことをつい目で追ってしまったり、彼女から送られてくるメールを心から楽しみにしている自分がいて、困惑する。

 デュランタを贈ったあの時、俺の中で何かが開花したような気がするのだ。

 だから。

 俺は、多分恋愛的に雨林院真冬のことが気になっているのかもしれない。

 姉様達に今の正直な気持ちを話すなら、そういう回答になる。

 しかし、この気持ちは自分の中にとっておかなければいけないものだ。俺の目的は、バッドエンドを回避すること。そのためには、今の付かず離れずという距離感を保たなければならない。

 

「咲也、その気持ちは……分からないままにしてはダメよ」


 姉様の言葉がぐさりと胸に刺さる。

 言ってることはもっともだ。俺だって、そう思う。

 でも、俺がこの世界におけるイレギュラー要素の塊なのだ。

 今はメインキャラと仲良く出来ているけど、本来の俺は敵キャラなわけだから、この状況がずっと続くとも限らない。

 たとえ、真冬とそういう関係になったとして、それがこの世界において問題ないことなのかどうかまでは、誰にも分からないのだ。

 原作と展開が変わることで、全く違った脅威によって、俺の命の危機が訪れる可能性もある。その時、俺の能力では誰も守ることが出来ないし、戦うことも出来ない。

 そう思うと、二の足を踏んでしまう。

 でも。


「分かってます、姉様。ちゃんと、分かってます」


 そう答えると、姉様は値踏みするような視線を寄越した。真っ直ぐそれを見つめ返す。

 時間はかかると思うけど、きちんと答えは出します。ただ、今は無理なんです。

 莉々先輩は、その様子を楽しそうに眺めていた。この人は相変わらず、本心が見えないなあ。

 やがて、姉様は静かに頷いた。


「……そう。明前家の者として、不義理は許さないからね」

「はい」


 俺も合わせて頷く。

 一息ついて、カップを口に運ぶ。ハーブティーは、冷えて苦くなっていた。 

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