第40話

 今日は、久しぶりに習い事もなければ誰との約束もない日だった。

 新しいクラスでの生活も結構経ち、周りはグループが出来上がっているが、俺は相変わらず孤高を貫いている。

 本人の意思とは関係なくですけどね。

 とはいえ、クラスメイトと話をすることはあるんです。体育で二人組作る時とか。相手にはものすごい恐縮されてるけど。

 そんな怖くないでしょうに。

 取って食ったりしないから。

 クラスも変わったことだし、どうにか生徒会外で友達を作りたいなあと思っているのだが、結果はあまり芳しくない。

 自分から話しかけにいくこともあるんだけど、男子は皆何かを気にするようにおどおどしているし、女子は怯えているのか、あわあわとしていて、どちらもうまく話が出来たことがないのだ。

 どうしてこうなった。

 やはり入学時にもっと友好的な姿をアピールすべきだったか。

 義弥が羨ましい。立場は同じはずなのに、アイツは女の子にとてもモテるし、男の取り巻きも多い。

 そういえば、原作だと俺にも取り巻きがたくさんいたはずなのに、全くそんな気配ないのはどういうことなのだろう。いずれ人が寄ってくるようになるのかしらん。

 溜息をつきながら、校内をぶらついてみる。どうせやることもないし、教室にいても誰とも話さないしさ。

 それに、せっかく玲明学園に通っているのだから、広大な校内を一度ゆっくり散策してみたいとずっと思っていたのだ。

 中等部や高等部は、少し行くのに勇気がいるので、今日は初等部のある西棟を中心にぐるりと探索してみることにした。

 校舎内は広いが、西棟は初等部の教室しかないので、そこまで面白いものはない。別学年のフロアにくると、廊下に書道の作品がずらりと展示されており、そこはかとなく懐かしさを覚えた。

 好きな二文字を書くというお題だったのだろう。皆任意の二文字を個性溢れる字で書いている。

 色んな文字があるなあ。

 「信念」「勇気」とかは鉄板だよね。俺は気を衒って「開闢」とか書いて、先生から気まずそうな顔をされたけど。

 と思ったら、「煉獄」と書いている奴がいるじゃないか。どこの学年にも覚えたての何となく格好いい文字を書きたくなるやつがはいるのよな。

 先生、止めてよ。

 後で死ぬほど後悔したよ。めちゃくちゃ浮いてるんだわ。何なら廊下に出る度に胸のあたりが締め付けられるようだった。

 悲しくなってきたので、校舎内の散策はこの辺りにして、外に出た。校舎の周りも庭師の人たちが整備しているから年中綺麗だ。

 ぐるりと校舎の外周を回ってみる。

 西棟の裏手には雑木林が広がっている。結構広そうなそれを道なりに進んでみると、池があるのを見つけた。

 林の中って普段行く機会なんて全くないから、全く気づかなかった。

 覗き込むと、底が見えるくらいには水も綺麗だし、鯉も泳いでいる。さらには枯れ葉やゴミも殆ど浮いていないから、きちんと手入れがなされているようだ。

 こんな落ち着く場所があったのか。

 池の周囲には誰もおらず、少し遠くから部活動か何かのかけ声が微かに聞こえる程度の静けさだ。ゆっくり考え事をするには良い場所かもしれない。


「…………」


 池の周辺だけは、日本庭園を意識して形作られた空間なのか、適当な配置で大小様々な岩が置かれているので、その一つに腰かけて池を眺めてみる。

 横になれると、もっと考え事に集中出来るんだけど、さすがにそんな大きなものはない。当然、地べたに座ったり寝るのは論外なので、腰かけられる岩で我慢しよう。

 ゆらゆらと、池の中を揺蕩うようにゆったりとおよぐ彼らを見ていると、なんとも心が穏やかになっていくようだ。


 こうして川とか池とかぼーっと眺めるの好きなんだよなあ。

 加えて、魚とか野鳥とかいるともう飽きないよね。無になれるというか、こうしているといつか涅槃に至れそうだ。

 ハクセキレイとか来ないかな〜。

 あの素早くトテトテと歩く様は見ていて飽きないよね。


「うふふ」


 つい想像して変な声が漏れてしまった。まあ、誰もいないしいいよねーー


「あ? 先客がいたのか」

「ヴェアアア!?」


 びっくりした!

 人の声? びっくりしてまたしても変な声を出してしまった。

 誰だ。聞き覚えのない声だ。

 声のした方を見ると、初等部の制服を着た男子が一人、佇んでいた。

 いや、本当に誰?

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