第35話
銀水兄妹と庶民ツアーの約束をした後、そういえば今はお茶会の真っ最中だったわと思い出し、慌てて真冬の方へ視線を向ける。
綾小路君は、希空と話しており、真冬はお菓子をちびちび齧っていた。
いかん! 闇堕ちしてしまう!
同時に、話しかけるチャンスだ。
俺は、真冬へ話しかけた。
「真冬さん、楽しめてる?」
「はい、咲也さん。それと、この前はデュランタのお花をいただき、ありがとうございました」
「メールでもたくさんお礼の言葉はもらったし、大丈夫だよ。喜んでもらえたみたいでよかった」
「はい。毎日水やりの時間が楽しみなんです」
心から楽しそうに言う彼女を見て、ほっとした。喜んでもらえて本当によかった。
あらためて、強引な方法をとったと反省してます。今になってじわじわと、恥ずかしさが湧き上がってきました。それくらい、あの時の俺はアクティブだった。
本来の目的である、平穏な生活を送るための行動をすっかり忘れていた。最近、なんだか気が抜けてきてるなあ。
ともかく。
「そう言ってもらえると、悩んだ甲斐があったよ。こちらこそ、いつもメールがくるのを楽しみにしてるんだ」
「そうなんですか?」
「うん、真冬さんの書いたメールは面白いから」
これは本当。
俺たちのメールでのやりとりは、「今日はこんなことがあった」みたいな内容が多いのだが、彼女は読み手のことを考えて、起承転結を意識して文章を書いてくれるから、物語を読んでいるようで面白いのだ。
一方、俺は思いついたことを書き散らしていますがね。
「ありがとうございます。なんだか恥ずかしいです」
真冬は、照れて顔を赤く染める。褒められ慣れていないのだろう。
俺は畳み掛ける。
「本当に面白いと思ったよ。何なら、将来は良いエッセイストになると思ったくらい」
「そんな、褒めすぎですよ」
「過大評価じゃないと思うけどね。真冬さんの作品集が出たら、保存用と観賞用と布教用で三冊は買うと思う」
「あなたは一体何を言ってますの」
さすがに言いすぎたか。横から亜梨沙のツッコミが飛んできた。
「思ったままを言っただけだよ」
「たしかに真冬は国語が得意ですし、そっちの才能があるのかもしれませんけれど」
「だろ? 玲明の作文コンクールとかに是非応募して欲しいと思ってるんだよな」
「それは良い考えですわね! きっと、皆はそこで真冬の才能を目の当たりにして驚くことでしょう!」
諌めようとしてきた亜梨沙と意気投合した俺は、口々に真冬を誉め立てる。
でもこれ、亜梨沙は半分楽しんでるな。
「二人とも、真冬さんが困ってるから。そろそろやめてあげなよ」
義弥からストップがかかる頃には、真冬の顔は茹でダコのように真っ赤に染まっていた。
「褒められるのは嬉しいですけど、あまり言われると恥ずかしい……っ」
「あら、真冬。私は冗談でからかったわけではありませんわよ」
「嘘だ。亜梨沙は真冬さんの反応を楽しんでいたじゃない」
俺は違いますよ。
でも、ちょっと褒めすぎたかな。
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