第36話
今日は、土日で学園も休みだし、父様の仕事も区切りがついたらしく休みが取れそうということで、家族で食事に行く予定となっていた。
母様も入れて外食は、本当に久しぶりなので、嬉しいな。
「咲也さんはスタイルがいいから、玲明の制服が似合うわね」
「ありがとうございます」
今日行くお店はドレスコードがあるから、玲明の制服を着ている。母様に褒められて気を良くしている俺を、横で同じく制服を着た姉様が一瞥する。
「咲也、私は?」
「はい?」
「似合ってる?」
「はあ、似合ってますが」
何言ってるんだこの人は。自分が可愛い自覚がないのか。ファンクラブあるじゃないか。俺にはそんなのないんだぞ。
「なんか、心がこもってなくない?」
「そんなことないですよ」
「ふーん、雨林院家の次女にはお熱みたいなのにね」
「えっ」
何で知ってるんだ。
「咲也が、雨林院真冬さんに猛アピールしてるって四年の間でも噂になってるよ」
嘘! 目立たないようにしていたはずなのに。というか、なんで俺の情報が別の学年まで伝わるんだよ。
「咲也は有名人だから。明前家の御曹司なのに、目立たないわけないでしょ」
「そうなの!?」
俺、全然友達もいなければ、近づいてくる子もいないんですけど。一年の運動会の時、少しだけ仲良くなったじゃん。なぜ時間が経つにつれてまた距離が離れていくのかな?
いつも遠巻きに見られていて、まるで檻の中のライオンだよ。
「雨林院様のところの真冬さんは雪のように綺麗な方と聞いているわよ。咲也さんも男の子なのねえ」
「何だ、咲也。銀水家の亜梨沙さんはどうしたんだ」
タイミングいいな、父様。
母様に加え、支度を終えて来た父様まで会話に参戦してきたので、もう話の流れは俺の好みのタイプはどんななのかに移ってしまった。
初等部の低学年のことだし、単なるままごとのような感じで流されるかと思いきや、意外と大事になっていきそうな雰囲気がある。
よくよく考えればそうか。
でも、公になっている分、逆に真冬に近づいても違和感がない状況ともいえる。自分の立場というものを理解した行動を取ろうと反省はしなければやらないが、当面はこの立場を利用して動いてやろう。
「咲也さんに彼女なんて、また後日お祝いしなければいけないわね」
「彼女とかではないですよ、母様」
「雨林院家の姉妹どちらも器量がいいから、どちらを選んでも私は歓迎するよ、咲也」
「選ぶとかそういうことではないです、父様」
さすがにずっとこの調子では大変になってきたな。
もう家を出ないといけないでしょうと、無理矢理話を遮り、外出を促す。
自家用車で都内ホテルの駐車場まで送ってもらい、そこからエレベータでお店へ向かう。今日は、ホテルの最上階にあるフレンチのレストランだ。
就学前ではないけれど、初等部低学年の子供を連れてきて大丈夫なのか不安だったのだが、どうやら個室なら大丈夫のようだ。
明前グループではないけど、このホテルやレストランは、会社の行事等で懇意にしているところらしく、父様の顔がきくらしい。いや、これもうほぼ父様待遇でしょうに。
なんかすみません。
おそらくだけど、父様的には家族水入らずでの食事という目的に加えて、俺や姉様にレストランで実際にテーブルマナーを意識した食事をする経験を積ませる意図もあるのかなと思う。
さっきから、見られてますもの。父様と母様から、すっごく。
子供ってスポンジのように何でも吸収するからね。習い事も勉強も、そしてマナー講習も、早いうちに一通り経験させるのはそのためだ。
と、思っていたのだが。
「それで、咲也。もし、誰かと交際し始めた時には言いなさい」
「あら、あなた。少し気が早いですよ」
「そんなことはないさ。この子ももう三年になるのだし、婚約を結ぶにしても、相手の家に話をするのは早い方がいいからね」
結局、この話に戻ってくるのかい!
「その、今咲也がお熱だという、雨林院家の真冬さんは、どんな子だったか。あそこは姉の希空さんの方が有名だから、ノーマークだったな」
「あら、姉君に負けずお綺麗な子でしたよ。今度是非お話してみたいわ」
「そうだね。咲也、もしよければ今度家に遊びにきてもらいなさい」
え、この流れはいけない。
でも、もう遅かった。二人とも、その気満々だ。
姉様に助け舟を求めるが、首を横に振られた。
もうすぐ三年になるというのに、幸先はよろしくなさそうだ。
どうしようかな……。
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