第34話
庶民体験ツアーという言葉にピンときていない二人に、俺は簡単に説明する。
要するに、一般人なら普通に当たり前のことだけど、俺たちみたいなおぼっちゃま、お嬢様が経験する機会の少ない食べ物やイベント等を紹介して、どういうものか、その実態を知ってもらうというものだ。
本当なら、一般人の娯楽を知ってもらうため、実地にも連れていきたいのだが、初等部の今はまだ出来ないので保留。
「趣旨は分かりましたが、これをすることに意味はありますの?」
「ある。きちんとそういったものを体験した上で考えが変わらないならば、亜梨沙さんの言葉には説得力が生まれる」
「なるほどね。亜梨沙の言葉が決して口だけではないと、そういうことかな」
「ああ」
つまり、これで亜梨沙のことを翻意させられないと、より彼女の考え方が凝り固まっていってしまうことになる。
うまくいくか心配になるが、これは静樹が入学してくる高等部まで待っていられない。原作では敵同士だけど、こっちではせっかく出来た友達だからね。孤立化して、原作の咲也のようになっていく可能性を放ってはおけない。
「おっしゃりたい意図は分かりましたわ。では、もし私の意見が変わらなかったらどうしますの?」
じっと見つめられるが、そんなの決まってる。
「その時は、俺も亜梨沙さんの意見を受け入れるよ。必要以上に生徒会メンバー以外とは関わらないようにする」
これくらいは覚悟を見せないと、多分彼女は納得しないだろう。
もし、その通りになってしまった場合でも、他の選民思想ガチガチの先輩方と関わらないように、俺と義弥で囲い込む。割といつも一緒にいるから、そんなにやること変わらないけど。
「……一つ、付け加えて下さる?」
「え?」
「生徒会同士仲良くしていくのは喜ばしいことですわ。でも、それだけだと特にいつもと変わりませんわよね?」
あ、バレてた。
まあ、何かしら言われるとおもってはいたけどさ。
さて、一体どんな条件を突きつけられるんだろう。戦々恐々としていたが、
「……ですから」
亜梨沙は、珍しく勢いを落としている。しかも、顔まで赤らめているので、ついまじまじと見つめてしまう。
大人しくしていれば、まつ毛も長く、綺麗な顔立ちで、まるで人形のように可愛いのになと思う。
彼女は、何かを言うまいか迷っているようで、口をパクパクさせながら、金髪のウェーブがかかった髪を、人差し指でくるくるといじっている。
まるで告白される前みたいで、俺まで恥ずかしくなってきた。我慢出来ず、俺から促してみる。
「どんな条件を付け加えるの?」
「……ですから、もう何でもありません!」
すると、亜梨沙はそう言って、そっぽを向いてしまった。結局、発しようとしていた言葉は、そのまま飲み込んだようだ。
余計なことしてしまったかな。
でも、あれ以上は心臓が持たない。
「素直じゃないなあ」
「うるさいですわ!」
義弥が亜梨沙をからかっているが、あまり今回は茶化さない方がいいと思うよ。
思い上がりでなければ、亜梨沙が俺のことを憎からず思ってくれているのかなというのは何となく分かる。
でなければ、運動会で自作の栄養ドリンクを持ってきてくれたりはしないだろうから。
でも、不思議なことに、あのドリンクの味が思い出せない。というか、思い出そうとすると、えずきそうになる。
何でかな。
……何でかなあ。
とにかく、紆余曲折はあったが話はまとまったので、今度俺が二人に庶民の食べ物をご馳走することとなった。
何にしようかな。
家庭科室を借りて、たこ焼きパーティーでもしようかしら。
あ、バレたらまた父様に怒られそう。
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