第33話

 真冬から聞くところによると、サロンへ向かおうとしたら道中一緒になり、話しながら来る途中にお茶会の話になり、自分も是非参加したいとお願いされたのだそうだ。

 仕方ないよ。断る理由もないしね。

 真冬からは「勝手に申し訳ありません」と謝られたが、気にしないでと言っておいた。

 後から、希空と義弥もやってきたので、サロンの端に集まって、お茶会は始まった。


「義弥、どこ行ってたんだよ」

「ん? ああ、ちょっとね」


 隣に座った義弥に尋ねると、含みのある表情で誤魔化された。

 何だよ。

 それを聞いていたのか、亜梨沙はまた少し機嫌が悪くなった。


「ほら、咲也さん。義弥なんか気にしないで、お茶会の準備をいたしましょう?」

「あ、うん」


 大人しく従う。

 お茶会とはいうが、単にお菓子を持ち寄って雑談するだけだから、普段サロンでしていることとあまり変わらないんだけどね。

 亜梨沙はすでに、持参した紙袋から高級そうな箱を出してテーブルに用意しているので、俺もカバンから物を取り出す。

 綾小路君以外の全員が、準備が出来たところで、せーので箱や包装を開けることに。


「かなり豪華だな」

「色とりどりだね」


 俺の呟きに義弥が賛同する。

 皆が持ってきたのは、クッキーやゼリー等、色彩豊かなお菓子たちで、一気にテーブルが華々しくなった。

 おまけに、どれも高級菓子屋のものだろうから、味にも期待出来そうだ。

 ちなみに俺は、ドライフルーツを持ってきた。良いとこのは甘味がギュッと凝縮されて、とても美味しいのだ。

 皆、持ち寄ったお菓子の紹介や、他のお菓子への感想を言い合っていたが、ちょうどコンシェルジュがお茶を持ってきてくれたので、さっそく味わってみよう。

 まずは、このゼリーが気になる。

 一口。

 美味しい。

 中に細かくした果肉が入っていて、とてもジューシーだ。一口サイズなのに、きめ細やかな仕事してますね。


「あの、咲也さん」

「ん?」


 義弥とは反対側の隣に座っている亜梨沙から話しかけられる。


「さっきは、失礼しましたわ」

「何のこと?」


 今度はチョコをひとつまみ。あ、この前いただいた莉々先輩のお土産とはまた違う。甘くて美味しい。


「機嫌というか、虫の居所が悪く、咲也さんにもぞんざいな態度を取りましたから」

「別に気にしてないけど、何かあったの?」

「亜梨沙の機嫌が悪いのは、僕のせいなんだよ」

「ちょっと、義弥。話に勝手に入ってこないで」


 ふと、横で話を聞いていたらしい義弥が、話に入ってきた。亜梨沙が抗議するも、そのまま彼は続けて言った。


「あまり言いたくなかったんだけどね。今日遅れたのは、同じ学年の女の子に呼び出されていたからなんだ」

「それって、もしかして……?」

「うん、告白されたんだよ」


 なんてことだ。

 まさか、友人がリア充街道を邁進しているとは。俺なんて、二年生からは態度や口調をクールに見せようと頑張っているのに全くモテないんだぞ。この差は何だ。


「そこまでなら良いんだけどね、亜梨沙は、生徒会じゃない子が僕に告白なんて、身の程を知らないって怒ってるんだよ」

「あー」


 なるほどね。

 同じ生徒会選別メンバーの俺たちには、普通の子だから最近忘れてたけど、亜梨沙は割と選民思想の強い子だった。

 玲明の初等部に通っている時点で、平均以上の資産家令嬢な気はするけど。彼女の中では、生徒会メンバー以外は庶民と同等くらいに考えているのだろう。


「だって、そうではありませんか。身分の違いも考えずに、庶民が一方的に告白なんて失礼ですわ」

「まあまあ、僕は気にしていないんだからいいじゃない」

「それもですわ! 義弥は何とも思いませんの?」

「亜梨沙こそ、庶民とか身分の違いとか、考え方が古いんじゃない?」

「何ですって!?」


 あーあ、兄妹喧嘩が始まってしまった。しかも俺を挟んで。

 双子のサラウンドが耳の奥に響くよお……。おまけに、感情が昂って能力の制御が出来ていないのか、片側はひんやりとしていて、もう片側は熱い!

 溜息をつきながら顔を上げると、ふと斜向かいに座る真冬と目があった。

 俺が、目線だけで双子を見て苦笑すると、彼女も少し困ったように笑った。

 ずっとこのままというわけにもいかないし、仕方ないか。


「あのさ、亜梨沙さん」

「何です。止めないでくださる?」

「喧嘩を止めるつもりはないんだけど、亜梨沙さんはどうしてそんなに庶民を嫌ってるのさ」

「そんなの、私たちとは住む世界が違うからに決まってますわ!」


 ふんと亜梨沙が鼻を鳴らす。


「住む世界が違うとなぜ嫌いになるの?」

「え?」

「棲み分けをするだけなら、別に嫌ったり、過剰に遠ざける必要ないじゃない。庶民が、どんな暮らしをしてるか、どんな人たちなのか、亜梨沙さんは知ってる?」

「いえ……。あまりよくは存じ上げませんわ。でも、お父様はいつも言っていますわ! 庶民は野蛮だから関わらないようにと!」


 うわあ。それはひどい。

 銀水会長は、差別感情の強さならうちの父様よりひどいかもしれないな。

 元庶民だから、あまり良い気はしないよね。


「その野蛮な庶民にひどいことでもされたわけでもないわけ?」

「それは。……ひどいことなんて、何もされてはないですけれど」

「だったら、亜梨沙さんは先入観だけで庶民とやらを嫌ってることにならない?」

「……」


 彼女は、黙り込んだ。

 ちょっと言いすぎたかな。でも、このまま放っておくと、中高と成長するにつれてどんどん増長していくだろうし、どこかでストップはかけないといけないと思う。

 それが今なのか、自信はないけれど。


「亜梨沙さんさえよければ、庶民の生活について、見てみない?」

「え?」


 俺の提案に対し、亜梨沙はキョトンとしていた。よく見たら、反対側の義弥も同じ顔をしている。

 こういうところは、双子だなと思わず笑った。

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