第26話

 新入生の挨拶が終わってしばらくすると、生徒会長から解散の挨拶があり、歓迎会はお開きとなった。

 すぐさま帰る人もいれば、仲の良い者同士で残っている人たちもいる。

 俺たちも後者で、真冬を呼んで少し話でもしていこうということになっている。俺はお祝いの品を渡す目的もあるからね。


「そろそろ、真冬を呼んできますね」


 人の流れが落ち着いてるきたので、希空が立ち上がり、真冬を呼びに行ってくれた。

 さて、渡す前に品物の確認をしておこう。

 用意したのは、花だ。こういうのは下手に残るものを贈るより、消えものの方が良いと思ってのチョイスだ。

 だって、まだ真冬と仲良くなれてないからね。あまり高価なものとか、形に残るものを贈っても引かれるだけでしょう。

 ……いや、ゴリ押しで渡すって話に持っていった時点で引いてるか?

 とにかく。

 今日用意したのは、デュランタの鉢植えだ。花は小さいが、紫色の色鮮やかで可愛らしいのだ。また、葉っぱも綺麗だから開花時期以外にも楽しめる。

 何となく、真冬のイメージに合いそうだと思って買ったのだが、喜んでくれると良いな。

 なんて考えていたら、希空が真冬を連れて戻ってきた。……あれ、もう一人いるよ?

 真冬の後ろについてきたのは、彼女と同じく今年の新入生で、たしか、


「綾小路聡太郎(あやのこうじ そうたろう)と申します。まだ真冬さんと話し足りなかったので、無理を言ってご一緒させていただいちゃいました」


 そうそう、綾小路君だった。

 彼はそう言って「すみません」と、頭を下げる。

 すると、希空がすっと横に来て、申し訳なさそうに耳打ちしてきた。


「……ごめんなさい、どうしてもと言われてしまって。咲也様、大丈夫ですか?」

「気にしないで。真冬さんと仲の良い友達が出来るのは喜ばしいよ」


 内心は、邪魔するなや坊主と言ってやりたかったが、真冬に友人が増えることが喜ばしいというのも紛れもない本心だ。

 希空も、俺がそう言ったことで安心したのか、「では、贈り物は後で」と言い、席に座った。

 二人も席に座り、六人でテーブルを囲む。


「あらためて、真冬に綾小路さん、ご入学おめでとうございます。先輩として、歓迎いたしますわ。私は、銀水亜梨沙と申します。よろしくお願いしますわ」


 仕切り屋の亜梨沙が挨拶したのを皮切りに、皆も同じように一言ずつ自己紹介をしていった。


「綾小路聡太郎です。実は、僕は能力のない身なのですが、仲良くしていただけると嬉しいです」


 へえ、彼は能力がないのか。率直に珍しいと思った。何せ、玲明で、しかも生徒会に選別されるレベルの子が無能力なんて、かなりのレアケースだ。

 ここは玲明だから、能力の有無で露骨に差別が起こることはないだろうけれど、何かしら噂の種にはなるかもしれないから、少し気の毒だな。

 と考えていたら、俺の番が回ってきた。

 いかん、挨拶挨拶……。


「明前さきゅやです。……よろしく」


 俺は、また噛んだ。

 くそう。何で大事な場面で噛むんだ。

 雨林院姉妹が二人してすごい笑いを堪えている。笑いの沸点の低い姉妹だなあ。

 傍ら、綾小路君は少し呆れたように俺を見ていた。

 笑えよ。

 いや、笑ってください。

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