第25話

 それから少し場が落ち着いた頃合いを見て、高等部の生徒会長から歓迎の挨拶があった。

 去年、挨拶をしてくださった栗栖様は、卒業して玲明大学へ進学したため、新たに生徒会長になった男子の先輩が、流暢に挨拶を述べられていた。

 やはり高等部の先輩となると、落ち着きが段違いだ。栗栖様とお話をさせていただいた時にも思ったけど、俺もこういう先輩方のようになれるだろうか。

 うーん、なれる気がしないなあ。

 今日から晴れて二年になった。一年という年月を経て、去年より少しは大人になれているといいな。

 前世の記憶があるから、なまじ勉強とかは余裕だとタカを括っていたけど、普通についていくのも結構大変だ。

 やはり、玲明の授業はレベルが高い。

 おまけに、明前家の跡取り息子ということで、初等部に入ってから習い事に加えて家庭教師がついた。その人から、社会情勢や経済学、経営学といった学校では習わない教養について学ばせてもらっている。

 グループの後継者に相応しい人間となるための教育が始まったということらしい。

 おかげで、自由な時間があまりない。

 元々、この世界の社会情勢には興味があったし、前世では病気のせいで大学にも行けなかったから、そういった勉強をするのは新鮮で、刺激的ではあるけどね。

 それに、初等部のうちはあまり一人での外出は許可されないと思っていたから、ある意味割り切って考えているし。

 でも、息抜きがない!

 たまにはゲームやりたい!

 一人で悶々と考え事をしていたら、いつの間にか挨拶は終わっており、そのまま生徒会長に促され、新たに仲間になった三人が順番に自己紹介をしているところだった。

 緊張しているのか、皆どこか話し方がたどたどしい。

 いつも隙を見せまいと振る舞う真冬ですら、声が少し震えている。

 見た目は綺麗でも、やはり初等部一年なのだろうと、思わず微笑んでしまう。

 いや、違うのよ。決して、馬鹿にしているわけではないんですよ。

 俺たちの代って、前世の記憶がある俺はもちろんのこと、希空に銀水兄妹と、本当に小一なの? と言いたくなる子ばかりだったから、それが普通だと思ってしまっていたんだよね。

 年相応の子たちを見ると、それが普通なんだと安心するというか。

 普通って、素晴らしいことだと実感するのだ。いや、真冬は普通じゃないけども。

 何を隠そう、俺も去年は淀みない口調で、ショートスピーチをするような自己紹介をきめてやったものだ。


「そういえば、誰かさんが去年盛大に噛んでいらしたわよねえ?」

「…………」

「一つの文節の中で二回噛んだよね、咲也」

「…………」

「うっ……ふふっ……二人とも、し、失礼ですよ、っく……ふふ」

「…………」


 皆して何で覚えてるのよ。

 そして希空さん、ちょっと笑いすぎ。

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