第27話

 自己紹介が一通り済んだところで、綾小路君や真冬を中心にして雑談が始まった。

 とはいっても、会話の中でなんとなく一年生と二年生に分かれていってしまったので、真冬と直接話す機会はあまりないまま、時間は刻一刻と過ぎていってしまった。

 どうしよう。

 どうしましょう。

 全く仲を深めることが出来ていないんだけど。花も渡せてないし。


「真冬さんは、とても歩き方が綺麗だよね。茶道のお稽古は誰から?」

「お母様と懇意にしている方から受けています。厳しい方ですけれど、毎回美味しい洋菓子をお持ちになってくれますの」

「それは羨ましいな。真冬さんは洋菓子の方が好きなんだね」


 聞き耳を立ててみるも、話途切れないなあ。

 さっきから、真冬から話を振っている様子はないのだが、綾小路君の話し方が上手いのか、会話がずっと続いている。

 だから、俺が話しかけるチャンスがない。

 綾小路め……。

 彼奴のせいで全然隙がない。

 やはり、奴は真冬にほの字なのか? そういうことなのか?


「……」


 深呼吸。落ち着きましょう。

 「のノア」に、綾小路聡太郎という男子生徒は登場しない。

 つまり、彼は、この世界のオリジナルというのか、言い方が難しいが、ゲームの本筋には絡まないはずの人間ということだ。

 まあ、ゲームも全ての人間関係を描写するわけではないから、原作に出てこない人と仲良くなることはあり得ることなんだけどさ。

 でも綾小路君、無能力者なんだよね。

 しかも、自分から無能力であることを明かしている。その点がどうしても引っかかる。

 実は、この玲明学園、誰がどの特殊能力を持っているのか、生徒同士はあまり知らないことが多い。

 もちろん、学校側は誰がどういった能力を持っているかを全て把握しているが、能力ってデリケートな情報だから表に公開はされないし、当然ながら聞いても教えてはもらえない。

 そのため、生徒同士はお互いの自己申告か、実際に能力を使っているところを見ることでしか能力の有無や種類について知る機会がないのだ。

 つまり、玲明では自分から言わなければ自分が能力持ちか、そうでないか周りから知られる可能性が低いのだ。だから、わざわざ自分から無能力であると言う必要はない。

 無論、綾小路君が本当のことを言っているなら、この推測は大変失礼なんだけど、俺には意図をもって何かを隠しているように見えるのだ。

 それが、真冬に近づいてきたことに関係しているおそれもある。

 しばらくは注視しておくべきだろう。

 他にも、彼の行動には少しおかしい点がある。……いや、俺が言うのもどうかとは思うけどさ。

 ともかく、彼は、真冬とお近づきになりたいと思い、こうして多少強引に話をする機会を得ていることになるが、その姉や友人に囲まれてまで話をしたいと思うだろうか。

 まして、俺たち全員上級生だよ?

 彼と真冬は同学年なのだし、学校生活の中でいくらでも話しかけられるのだ。この場は引いて、後日教室で話しかけにいった方が、邪魔も入らないし、自然ではないだろうか。

 まるで、真冬に近づく姿をあえて俺たちに印象づけるために動いているような。

 もしくは、俺たちの中の誰かに自分が無能力であることをアピールしたい人間がいるか。

 考えすぎか。

 単なる杞憂で済めばいい。その時は綾小路君にはきちんと謝ろう。

 とすると、本当に真冬が好きなだけということになるが。

 それはそれでなあ。

 ……いや、別に彼女が姉へのコンプレックスから脱却出来るならそれでいいんだけどさ。

 なんかモヤモヤするなあ。

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