第22話
季節は変わり、もう冬になった。あと少しで二年生だ。
今日は、また病院へ行って母様の治癒をすることになっている。お医者様の見立てでは、今日の治癒で寛解したといっていいだろうとのことだったので、これが最後の治癒だ。
今日は、姉様が付き添ってくれている。父様はさすがにグループの会長だけあって、仕事を休めず、最近はもっぱら姉様が付き添ってくれている。
俺も、治癒能力を何度も使う内に慣れてきたのか、発動後の疲労の程度が弱くなってきていた。
ぶっ倒れて指一本動かせないということもなくなって、これはもしやレベルでも上がったかしらと自分では思っている。
それはさておき、病院に着いたみたいなので、車を降りて正面玄関へ向かう。面会の申請をしてくれた姉様から面会者用の名札を受け取り、エレベータに乗り込んだ。
母様の病室は、個室で室内にトイレや風呂、応接用のソファに面会者が仮眠をとれるような小部屋まで着いている大きな部屋だ。さすが明前家、これ一日いくらするんだろう。
前世でもこんな豪華な病室見たことないよ。
「咲也さん、いつもありがとうね。輝夜さんも付き添ってくれてありがとう」
「気にしないで、母様。それより、もうすぐ退院出来るんでしょ?」
「ええ、これも咲也さんのおかげね」
なんとなく気恥ずかしい。たまたま治癒能力を持っていただけです。
下手に謙遜するのも悪いので、素直に受け取っておく。
照れを隠したわけではないけど、母様に腕を出すよう伝え、両手でそれを握る。
五分程、そのまま経過する頃、どっと身体が疲れたような感覚が襲ってきたため、手を離した。なんとなくだけど、この瞬間が、今の俺が持つMP的なものを使って治癒できる上限に達した合図なのだと気づいた。
「大丈夫?」
「ありがとう、姉様」
後ろに控えていた姉様が心配そうに背中をさすってくれる。
ありがたい。とはいえ、最初に比べればかなり楽になったのだ。
能力を使う度、少しずつ上限までの時間が伸びていくと同時に疲れの度合いが軽くなってきたのだ。
これはやはり、ゲームでいうところの経験値が溜まっていった結果、つまりレベルが上がったということなのだろう。
この世界は、俺が元いた世界と同じことも多いけど、「能力」に関する部分は全く価値観が異なるところもある。それに戸惑うことや分からないことも多く、今後大きくなったら検証していきたいと思う。
それから少し、病室のソファで母様と姉様との雑談を楽しみつつ休ませてもらい、往診でいらした主治医の先生に挨拶をしてから病室を後にした。
「退院日もすぐ決まりそうね」
「はい。母様が帰ってくるのが待ち遠しいです」
姉様と話しながら病院の入口まで来ると、見知った顔が入ってくるのが見えた。
あちらも俺に気づいたようだ。
「咲也様。ごきげんよう」
「奇遇ですね、希空さん。それに、妹さんも」
「ごきげんよう。真冬で大丈夫ですよ、明前様」
「ありがとう。俺も、咲也で構わないよ。真冬さん」
希空と真冬姉妹だ。軽く挨拶を済ませ、なぜここにいるのか聞いてみると、
「実は、真冬は身体が昔から強くないので、定期的に検査を受けているんですよ」
そう希空が答えた。
そういえば、真冬には病弱設定があったような覚えがある。あまり人前で言うことでもないだろうし、無遠慮に聞いたのは失敗だった。
「別に重い病気というわけではないですから、大丈夫ですよ」
俺の表情から気まずさを感じ取ったのか、気にしないでという風に真冬が笑う。
前に会った時もそうだったが、大人び過ぎている彼女の振る舞いは、多少事情を知っている俺の視点からだと、とても危うく、このままいくと間違いなく原作と同様のルートへ行ってしまうだろうと思う。
あまり不用意な発言は避けよう。
また、原作の展開を避けるためには、やはり彼女との接触を増やす必要があるだろう。
「それでも、失礼なことを聞いてしまい、ごめんなさい。……そうだ、真冬さんは今度玲明に入学式しますよね」
「は、はい」
「お詫びと言っては何ですが、その時に入学祝いを贈らせてもらえませんか?」
「そ、そんなわけには参りません」
真冬はそう言っていたが、親友の妹の晴れの舞台であるし、俺の気が済まないからとゴリ押しした結果、なんとか首を縦に振ってくれた。
隣で姉様がドン引きしていたが、これは必要な犠牲である。本当に口説いたわけではないんですよ。こっちは命かかってますから。
なんにせよ、これで布石は打った。
後は、入学式に贈る物を考えよう。
姉妹と別れ、病院を出ようとしたところで、何か視線を感じ、その方向を見ると、物凄い形相の雨林院会長がそこにいた。
一緒にいたんですか……。
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