第19話

 数日後、クラス対抗リレーの初回顔合わせがあるとのことで、俺は初等部のある西棟の会議室へやってきた。

 はあ、嫌だなあ。憂鬱だなあ。

 少し前、サロンに行くと言う銀水兄妹と教室を一緒にでて、雑談しながら途中まで来たのだが、なんと義弥は去り際に「大変そうだけど頑張ってね」と言いやがったのだ。

 お前のせいなのに!

 キッと睨みを効かせるが、暖簾に腕押し、糠に釘だった。

 ……やはり、義弥は要注意人物かもしれない。

 そういえば、別れ際、亜梨沙からは「頑張っている咲也さんのため、疲れの取れる料理を当日持って来てあげますわ」と言われた。教室で義弥の援護射撃を打ってきた時もそんなこと言っていたが、何だろう。もしかして、運動部ぇは定番というレモンの蜂蜜漬けとかかな?

 なんかリア充っぽい。楽しみにしておこう。

 と、いつまでも部屋の前に佇んでいても仕方ない。覚悟を決めて扉を開ける。

 すでに、二年から六年まで同じ組のクラス代表が集まっていた。うわあ、どの子もキラキラしていて、スポーツやってますみたいな爽やかイケメンばかりだあ。


「お、来たな噂の一年」


 中学年だろうか、スポーツ刈りの先輩が一人声をかけてくれた。

 って、噂の? たしかに、あまり生徒会メンバーがこういうのやることってないから、目立つよなあ。ただでさえ明前家の御曹司ってだけで目立つというのに。

 やっぱり上級生でも有名なのかな。嫌だなあ。

 波風立たぬよう、遅れたことを素直に謝っとこう。


「遅れて申し訳ありません。一年の代表、明前咲也です。よろしくお願いします」

「俺は三年の倉敷、よろしくな。あと、まだ集合時間前だから謝らなくていいんだぜ」

「それでも、先輩方をお待たせしてしまったわけですから。失礼いたしました」

「真面目な子だなあ。というか、聞いていたイメージと全然違うな」

「イメージ?」


 なんか聞き捨てならない言葉があったような気がしますが? 噂でも流れてるのか?


「ああ、こっちの話。まあ、よろしくな」

「はい。よろしくお願いします、倉敷先輩」


 握手を求められたので応じる。と、倉敷先輩は興味津々という顔で聞いてきた。


「気を悪くしたら謝るけど、明前君は生徒会メンバーなのにクラス対抗リレーに参加するのか? まさか立候補?」

「いえ、誰も立候補が出なかったので、先生からやってくれとお願いされたんです」

「え、あの明前家の御曹司なのに?」

「明前家だからこそ、推薦された節はありましたけどね」


 だって、あの明前家の子なら、たとえリレーで何かやらかしても文句を言える子なんていないからね。

 いや、やらかすこと前提で頼むな。


「……有名人も大変そうだな。うん、一緒に頑張ろうな」


 時間になったので、倉敷先輩はそう言って会話を切り上げ、席に戻っていった。俺も席につく。


 顔合わせはつつがなく終わった。うちの組はそこまで気合いに満ちた人がいないらしく、出来る限り頑張ろうという空気感だったので助かった。

 それでもバトン渡しの練習など最低限の練習はするということで、週に二日ほどが割り当てられた。

 組の代表なんだもんなあ。

 よし、出来る限り走り込みでもしてみよう!


 帰宅して、制服からTシャツに短パンへ着替えると、庭へ出て、走り込みを始める。それなりに広い庭があると、河川敷とかのランニングコースまで行かなくてもいいから楽だな。

 しかし、普段運動をしないからか、走り始めてすぐに横っ腹が痛くなってきた。

 ……ふう。

 走るのをやめて歩く。

 走り方が悪いのかしら。でも、教えを乞うのはなし。我流で何とかしなければ。下手にコーチでもついた暁には、嫌でも練習しなければならなくなる。

 お腹の痛みが和らいできたので、また走り始める。少し走ると、またお腹が痛くなり歩きに変える。

 初日の自主練はその繰り返しで終わった。

 その夜。


「いたたたた!」


 足が攣った! 痛い痛い!

 これは、慣れないことをしたからだよね。

 ……運痴じゃないよね?

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