第18話

 放課後、ホームルームで運動会の個別競技の参加者を決めることになった。先生は淡々と参加が必要な競技一覧を黒板に板書していく。

 というのも、玲明の運動会は五月にやるので、四月中に出場者を決めて、種目によってはもう練習を始める必要があるらしい。

 玲明の初等部は、全員参加の団体競技と個別参加の競技があり、それぞれ三つあるクラス別の対抗戦になるので、競技によっては上級生と合同で練習する羽目になるのだ。

 例えば、クラス対抗リレーとかね。うん、絶対にやりたくない。

 救いなのは、騎馬戦や棒倒しといった少し危険な競技は中等部に上がってからという点だろうか。あれ怖いよなあ。

 前世ではもっぱら見学組だったから、参加はしていないけど、怪我をする同級生が多かったから、見ているだけでもヒヤヒヤしたっけ。

 とはいえ、この咲也の身体はいたって健康だし、運動神経も悪くはないと思うので、何の問題もなく運動会に参加できるだろう。そう考えると嬉しい。是非、参加したい。

 ただ、前世の自分にとって激しい運動は厳禁だったこともあり、運動の仕方そのものを忘れているのだ。いきなり目立つ競技へ出るのは怖いものがある。今回は出来るだけ避けたい。

 危ないことなんてないのだろうけど、慣れないことすると怪我をしやすいものですから。

 と、そんなことをぼーっと考えていたせいか、気づいたら運動が苦手な子でもとっつきやすい借り物競走や玉入れなどの競技は埋まってしまっていた。

 しまった、出遅れた!

 残っているのはクラス対抗リレーと障害物走だ。

 ここは障害物走を勝ち取りたい。

 個人競技は、一人一つまでしか参加できない決まりなので、何かしらの個人競技に出ることが決まれば、少なくともクラス対抗リレーに出る必要はなくなるからだ。

 しかし、考えることは皆同じらしく、こぞって手が挙がったため、最終的にジャンケンで決めることになり、そこで俺は負けてしまった。

 結果、クラス対抗リレーの参加者が決まらずに残ってしまった。当然、誰も立候補する者はおらず、膠着状態になってしまった。誰かやってくれ〜。

 俺? 嫌だよ。クラス対抗リレーだけは絶対に嫌だ。目立ちたくないし。

 そんな時だ。


「咲也くん、クラス対抗リレーやってみたら?」

「ええ!?」


 唐突に義弥が俺の方を向いて言った。

 何てこと言うんだ! せっかく仲良くなれたと思ったら!

 とんだ裏切りだ!


「いいですわね! 咲也さんならきっと活躍できますわ! 安心なさって? 私が運動する時に良い料理を作って来て差し上げます!」


 亜梨沙の援護射撃も飛んでくる。

 気遣いは嬉しいけど、今のタイミングでは不要だったよね。


「たしかに。明前さんなら適役ですね。もしよければ、やってみませんか?」

「えっと……」


 チャンスとばかりに先生が一押し。偉そうなこと言って、知ってるんだぞ。全然決まらなくて少しイライラしていたの。

 なぜか周りの生徒も頷いたり、羨望の眼差しを向けてくるので、どんどん逃げられなさそうな状況になっていく。

 くそう。


「分かりました。やります……」


 結局、逃げられなかった。所詮、前世は小市民。こういう場で強気に断れるような性格ではないのだ。

 しかし、義弥には絶対後で復讐してやる……。

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