第17話

 玲明での新学期が始まり、ひと通り初回の授業が終わった。

 初等部だしとなめていたが、内容を忘れている単元も多いし、何より授業のレベル自体が高くて危機感を覚える。

 まだついていけているが、これ中等部とかやばいんじゃ……。

 とか思いつつも、少し気分は浮かれていた。なぜなら、今日は母様と携帯を買いに行くのだ。

 母様は、体調も安定してきて、ようやく一時帰宅が許可されたので、先日から家にいるのだ。一週間くらいは家にいてくれる予定である。もちろん、まだ数日おきに俺の能力で治療は続いている。

 放課後、銀水兄妹と希空に挨拶を告げて教室を出る。それにしても、あの三人以外の友達が全くできないのは何で?

 俺から話しかけないのが駄目なのかな。でも、怖がらせたら気の毒だし、困ったなあ。

 先日も、授業の内容で聞き逃したことを隣の席の女の子に聞こうと話しかけたら、その場で五センチ跳ねるくらい驚かれてしまった。すごくテンパっていたし、顔も真っ赤で、怖がらせてしまったかしらと反省したものだ。

 廊下を歩いていても、遠巻きに見られるだけで、なんだか寂しいなあ。

 まあ、嫌われるよりはいいけどさ。


 駐車場で自分の家の車を見つけ乗り込むと、後部座席にはすでに母様と、あと姉様が乗っていた。


「おかえりなさい、咲也さん」

「おかえり咲也」

「ただいま母様! 姉様も!」


 挨拶もそこそこに車に乗り込む。

 先日、歓迎会の後、家で携帯を持ってもいいか母様に聞いてみたところ、快諾してもらった上、買いに行く時に一緒についてきてくれることになったのだ。

 ちなみに、姉様がいるのは、ウキウキと歩いていたところを見つかり、様子がおかしいと問いただされた結果、「私もついていく」と言い出したからだ。

 母様と一緒にお出かけなんて随分久しぶりだろうから、姉様も楽しみにしていることだろう。

 現に、隣に座る彼女は上機嫌である。


「咲也さんは何が欲しいとか決めているの?」


 母様に聞かれる。

 言われてみれば、この世界の携帯ってどんなのがあるんだろう。多分、そこまで前世の頃と変わったものはないのだろうけど、そもそも俺が携帯の機種に明るくないこともあり、何を選べばいいとか全く検討がつかない。


「それが、どんなのがあるかよく分からなくて、実際の機械を見て決めようと思ってます」

「それなら私と同じのにしたら? 最新モデルではないけれど、機能性も良くて便利よ」


 姉様が制服のポケットから携帯を取り出す。そんな簡単に決めるのもなあと思ったのだが、そういえば姉様は「分析」の能力持ちだった。

 きっと、今の携帯も内部の構造を見て、良いスペックのマシンを使っているのだろう。となると、素直に従っておく方がいい気がした。


「姉様が言うなら間違いないですね。では、同じものにします」

「それなら、家で私が使い方を教えてあげるわね」


 気を良くしたらしい姉様は、ふんと鼻を鳴らしてそう言った。そんな姿を見て、母様が笑みを浮かべる。

 

「あら、輝夜さんは咲也さんとお揃いで嬉しいのね」

「ちょっと。違います、母様!」

「照れなくてもいいのに。ねえ、咲也さん?」

「そうですよ、姉様」


 年相応で可愛いと思いますよ。

 その後も俺と母様にいじられた姉様は、すっかりヘソを曲げてしまった。

 しかし、お揃いの機種で嬉しくてつい調子に乗ってしまったことを謝ると、意外なほどすんなりと機嫌は元に戻り、得意げに携帯の使い方を教えてくれたのだった。

 俺の姉はこんなに可愛い。

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